著者
関本 克良
出版者
天理大学学術研究委員会
雑誌
天理大学学報 (ISSN:03874311)
巻号頁・発行日
vol.63, no.2, pp.109-129, 2012-02

日本軍「慰安婦」問題は90年代に国連を中心にさかんに議論が行なわれた。その背景には旧ユーゴスラビア紛争での「強かん収容所」などに見られる武力紛争下での女性に対する性暴力が国際社会の重大な関心事であり,2000年の国連安全保障理事会決議1325の採択に至る経緯があった。武力紛争下の性暴力を断ち切るには犯罪行為の責任者を処罰する必要がある。元「慰安婦」による国内訴訟は全て申立てが棄却され原告敗訴で終った。判決の重大な焦点の一つに条約における個人請求権の解釈がある。日韓請求権協定によって不法行為に基づく被害者個人の損害賠償請求権が放棄されているのか否か,また国際法上個人の損害賠償請求権が存在するのか否か,本論はそうした視点から若干の考察を行なっている。
著者
Brousse Michel 細川 伸二
出版者
天理大学学術研究委員会
雑誌
天理大学学報 (ISSN:03874311)
巻号頁・発行日
vol.59, no.3, pp.33-44, 2008-02

This section of the Tenri University Journal is a continuation of the translation and annotation of "LE JUDO, son histoire, ses succ?s" written by Mr.Michel BROUSSE. The fifth part of this book is broken down into the following sections : The French Federation of Judo?Jujutsu, The Black Belt Commitee, Professional Tradition, Profession : Judo Master (History of Profession), Various Types of Recognitions, Passion and Requirement for Quality, Crisises and Growth, Abe Ichiro and Kodokan Judo. Uncovering the roots and development of Judo in France could indicate guidelines for the development of Judo throughout the world.
著者
高森 淳一
出版者
天理大学学術研究委員会
雑誌
天理大学学報 (ISSN:03874311)
巻号頁・発行日
vol.53, no.2, pp.21-57, 2002

物語というメタファーから心理療法の諸相を顧みることが本稿の課題である。自己は物語的に展開する時間性と等価なものであり,心理療法の場で扱われる心理的問題も物語として理解されうることを示した。そして臨床場面でクライエントが治療者を聴き手として,自分自身を語ることが,いかに自己の主体性・能動性を恢復するよう寄与するかを論じた。一方,語りが孕む自己隠蔽性や自我防衛的側面を指摘し,語りのメタファーでは取りこぼされる,語り以前の体験や自己傾聴について合わせて論考した。また治療理論や文化・社会的文脈といった治療に作用する「物語」に関しても考察を加えた。
著者
初谷 譲次
出版者
天理大学学術研究委員会
雑誌
天理大学学報 (ISSN:03874311)
巻号頁・発行日
vol.61, no.1, pp.49-73, 2009-10

美しいカリブの海岸線に面したトゥルムのマヤ遺跡は世界的ビーチ・リゾートとして知られるカンクンから車で2時間程度に位置し,チチェン・イッツア遺跡と並んで人気観光スポットである。遺跡に隣接するトゥルム市は,いまや3万人を有するトゥルム自治体(2008年設立)の首府として栄え,郊外には国際空港の建設が計画されている。同市の幹線道路沿いに並ぶ土産店やレストランを利用する観光客には,そこがかつてクルソー・マヤと呼ばれた反乱マヤの聖地であることは思いも及ばない。観光客が往来する大通りからわずか1ブロック入ったところにあるシュロ葺き屋根のマヤ教会(祭祀センター)では,輪番制で聖域を護衛するシステムが現在も維持されている。本稿は,2008年夏に実施したフィールド調査に基づいて,キンタナロー州のマヤ教会において実践されているミサと呼ばれる祈りをテクスト化し,再領土化という観点から考察したものである。資本主義はあらゆるモノを脱領土化して,一元的価値を付与して市場に流通させ,私的所有権によって再領土化するシステムである。このメカニズムから自由でいられる人間は地球上にはいない。しかしながら,その再領土化のやり方は一律ではない。近代的個人は再領土化するさいには,再-脱領土化を想定してモノの市場価値をモニタリングする。それが祈りであれば,「正しい」かどうか確認する。しかし,マヤの人びとは祈りを再-脱領土化することを想定することなしに,日常的空間に埋め込む。再-脱領土化する必要のないものは市場的価値という意味において「正しい」必要はなく,何世紀にもわたってブリコラージュされながら受け継がれてきたのだ。
著者
Jamet Olivier
出版者
天理大学学術研究委員会
雑誌
天理大学学報 (ISSN:03874311)
巻号頁・発行日
vol.62, no.2, pp.51-71, 2011-02

1911年8月桂太郎内閣が弾圧政治を行っていた時代に,夏目漱石は関西で4つの講演を行った。それは今日まで色あせることのない捕われた人間の個人としての自立と保護を訴える鋭いヒューマニズムを表明するものであった。本論文では大阪で行われた4番目の講演「文芸と道徳」について考察する。最初に当時の社会において漱石が個人の価値を認めるに至った経緯を説明し,急激に変化する社会を示す概念,表現,「鍵」となる漱石の言葉に焦点を当てる。そして夏目漱石文学におけるこの講演会の重要性,特に自己の存在への不安と危機が生じた約10年の間に起こった漱石自身の大きな変化を述べ,社会政治的性格を有したメッセージの重要性を説く。
著者
阪本 秀昭
出版者
天理大学学術研究委員会
雑誌
天理大学学報 (ISSN:03874311)
巻号頁・発行日
vol.64, no.2, pp.161-179, 2013-02

戦前期にソ連における宗教弾圧を逃れて中国に渡ったロシア正教古儀式派礼拝堂派教徒の一部は,1960年代以降に南米を経て北米に再移住し,合衆国オレゴン州を中心にコロニーを形成し伝統的信仰生活を送っている。ところが前世期末ころから,北米や南米における礼拝堂派内で,十字を切る際の指の形をめぐって論争が繰り返され,対立が先鋭化している。本稿は,この対立の動向を宗派の宗教会議資料をもとに追跡し,対立の背後にある歴史・文化的背景を探ることを目的としている。
著者
高橋 美帆
出版者
天理大学学術研究委員会
雑誌
天理大学学報 (ISSN:03874311)
巻号頁・発行日
vol.62, no.2, pp.1-31, 2011-02

'Nun' is one of the most prevalent themes in the 19 th century,although it is not a conspicuous craze but a silent spread of popularity. Women poets, such as Hemans, Landon, Browning, and Rossetti, started making adaptations of the Portuguese literature and circulating the works through themselves. They influenced each other, linked their works together, by borrowing or quoting phrases or themes each other, and made a mutual collaboration. As a result, they produced a significant intertextuality at a large―scale, which could be called 'the Portuguese Boom.' This boom is considered to have created and cultivated the literary theme of nun at that time. Accordingly, in the middle of the century, 'nun' became one of the literary trends, and took part in a sort of 'mini'genre, 'nun literature'. This paper deals with the intertextuality of Browning and Rossetti, with a slight introduction of Hopkins, and casts a new light on a genealogy of nun literature in the century through their works.
著者
山本 春樹
出版者
天理大学学術研究委員会
雑誌
天理大学学報 (ISSN:03874311)
巻号頁・発行日
vol.65, no.2, pp.99-113, 2014-02

日本近現代史は戦争の歴史ともいえるが,この戦争の歴史にどう向き合うべきかという問題をめぐって,いまだに決着のつかない議論が続いている。本稿は,戦争の歴史に向きあうためにはどのような点に留意しなければならないのかという問題を考えようとするものである。加藤陽子氏の著作を素材として取り上げるが,加藤氏の論述の眼目は戦争を正当化した論理を明らかにすることである。そこでまず,加藤氏が抽出するそれぞれの戦争を正当化した論理を整理して理解する。次に,その正当化の論理を加藤氏がどのように評価しているのかを明らかにする。最後にその加藤氏の評価について考えるという順で論述を進めたい。
著者
山本 伸二
出版者
天理大学学術研究委員会
雑誌
天理大学学報 (ISSN:03874311)
巻号頁・発行日
vol.65, no.1, pp.27-50, 2013-10

1159年の教皇ハドリアヌス4世没後に勃発したシスマは,皇帝(ドイツ国王)フリードリヒ1世・バルバロッサにとって,その後18年間にわたって彼の帝国再建策を規定していく要因の一つであった。そして反バルバロッサのアレクサンデル3世支持が拡大していく状況下の1165年,バルバロッサは,アーヘンでカール大帝の列聖を実施した。本稿は,そのカール大帝の列聖を,まず史料を確認し,ついで12世紀における列聖の状況をふまえ,さらにカール大帝とアーヘンといった「人」と「場」の結びつき,この列聖の「共演者たち」といった点も視野に入れて,その歴史的コンテクストのなかで考察することを目的としている。
著者
初谷 譲次
出版者
天理大学学術研究委員会
雑誌
天理大学学報 (ISSN:03874311)
巻号頁・発行日
vol.62, no.1, pp.1-30, 2010-10

本稿は3年計画の科研プロジェクト「日常的実践におけるマヤ言説の再領土化に関する研究」の最終年度に実施したフィールド調査の報告書であり,前2作の完結編となる。したがって,前2作で積み残していた2つの課題を中心に取り組んだ。ひとつは,トゥルム村の外部世界との接触の歴史である。そしてもうひとつはマヤ教会で日常的に実践されているミサと呼ばれる祈りのマヤ語部分の翻訳・分析である。かつてサマと呼ばれたトゥルム村はスペイン植民地支配(エンコミエンダ制度)に組み込まれ過疎化・消滅してしまう。しかし,19世紀に勃発したカスタ戦争を契機にトゥルム村は反乱拠点として復活する。そして,20世紀には遺跡の考古学的調査ブームとメキシコ国家統合によって村は条理空間にのみこまれていく。このような過酷な運命に翻弄されながらも,押し付けられたカトリックの祈りをブリコラージュによる摸倣と継承を繰り返しながら,自らの日常的実践の資産として再領土化してきた。かれらの日常的実践は,かたくなに伝統を守りながらマヤ文化の復興をはかるという本質主義的語りのなかに回収されてしまいがちである。しかし,彼らの祈りのなかには,いわゆる「マヤ的要素」は見あたらない。今回分析したマヤ語の祈りにも,カトリックを逸脱するような要素は見られなかった。マヤの人びとがときには経験知をときには科学的リテラシーを使い分けて,秩序ある条理空間と顔の見えるローカルな日常的平滑空間の両方を生きているとすれば,まごうことのない近代的自我を確立して合理的な科学的リテラシーのみを駆使して生きていると錯覚しているわれわれのやっていることとさほど変わらないのかもしれない。
著者
初谷 譲次
出版者
天理大学学術研究委員会
雑誌
天理大学学報 (ISSN:03874311)
巻号頁・発行日
vol.60, no.1, pp.123-142, 2008-10

トゥルムといえばカリブの美しい海岸に面したマヤ遺跡が有名であり,遺跡公園はつねに観光客であふれている。しかし,トゥルム遺跡のすぐそばにあるトゥルム市について,そこがクルソー・マヤと呼ばれた反乱マヤの聖地だったということはほとんど知られていない。カスタ戦争(1847―1901年)の末裔であるこの地域の人びとは,祭祀センターであり聖域である教会を輪番制で護衛するシステムを維持している。本稿は,2007年夏に実施したフィールド調査に基づいて,トゥルム市マヤ教会の護衛システムと伝統的ノベナを紹介するとともに,調査のさいに加えられた制限について考察しようとするものである。マヤ役職者たちは,研究者にメモ帳,筆記用具,録音機器,カメラおよびビデオなどの情報機器の使用を禁じる。しかし,だからと言って順路的経験をいっしょにすることを拒否することはない。むしろ積極的に参加をうながす。ただし,その順路的経験を地図的知識に整理しようとするそぶりに対しては強い拒絶の態度を示すのだ。情報操作の優劣による他者化を防いだうえで,儀礼への参加は認めることで研究者を他者化することもしないという日常的実践における近代と伝統の境界線上を生きるという戦術なのだ。
著者
倉持 史朗
出版者
天理大学学術研究委員会
雑誌
天理大学学報 (ISSN:03874311)
巻号頁・発行日
vol.63, no.2, pp.87-107, 2012-02

近代日本の監獄制度や更生保護,児童保護等の領域を専門とする有力な学術雑誌に『大日本監獄協会雑誌』がある。本誌は上記分野の史的展開を理解する上で重要な資料の1つである。本研究では第1に,本誌を発行した民間団体・大日本監獄協会の組織・活動等について検討を行う。第2に19世紀末から20世紀初頭にかけて生まれた感化教育や少年行刑,少年保護事業の母胎とも言うべき監獄改良の展開とその内実の一端について,本誌上の議論から検討した。また,それらを通して本協会とその機関誌が監獄改良に果たした貢献やその限界についても考察を加えた。