著者
加藤 久典 JIA Huijuan JIA Hujiuan
出版者
東京大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2012

これまでにパセリの熱水抽出物がヒト結腸がん由来細胞株HT-29の増殖抑制効果が認められたことから、パセリには抗結腸腫瘍活性を有する可能性が示唆された。細胞レベルから生体レベルへのパセリの腫瘍増殖抑制作用を検証するために、まずは最初の一歩として、デキストラン硫酸ナトリウム誘導潰瘍性大腸炎モデルマウスを用いてパセリ摂取による大腸炎の抑制作用を検討した。体重減少、血便、下痢の3つのスコアからなる大腸炎の指標であるDAI (Disease Activity Index)を評価するとともに、トランスクリプトーム解析を基盤とした統合オミクス解析を活用し、その作用分子機構の解明を行った。パセリ摂取マウスにおいて大腸炎の発症に伴うDAI上昇および腸管の短縮は有意に抑制され、血中腫瘍マーカーのSerum amyloid A1 (SAA1)、および炎症マーカーのIL-6 (Interleukin 6)、Matrix metalloproteinase-3 (MMP3)の濃度も顕著に減少した。大腸のトランスクリプトーム解析では、炎症サイトカインのI1-6、ケモカインCc15、下流のHaptoglobin、cluster of differentiation 163、および線維化マーカーのTissue Inhibitor of Metalloproteinase l、Mmp3、Mmpl0の発現が有意に減少し、パセリの摂取により炎症の抑制、腸管短縮の改善に関与すると示された。肝臓トランスクリプトーム解析では、Saa1、c-Jun、S100 calcium binding protein A8など腫瘍マーカーの発現減少、stearoyl-CoA desaturase-1、ELOVL family member 6, elongation of long chain fatty acids、fatty acid synthase、NADP-dependent malic enzymeなど脂肪酸合成関連遺伝子の発現増加から、パセリを摂取したマウスにおいて腫瘍マーカー濃度の減少および体重減少の改善との関与が考えられた。また、肝臓プロテオーム解析では、クエン酸サイクルおよび尿素サイクルにかかわるタンパク質の発現増加、メチオニン・リサイクル経路にかかわるタンパク質発現減少から酸化的リン酸化の改善、酸化ストレスの低減が示唆された。以上のように、トランスクリプトミクスとプロテオミクスを組み合わせた統合的な解析から、パセリ摂取による大腸炎抑制作用メカニズムの遣伝子-タンパク質ネットワークを解明できた。今後、メタポロミクス解析を加えさらに詳細に解析する予定である。