- 著者
-
安元 健
KASPAR H.F.
佐竹 真幸
大島 康克
- 出版者
- 東北大学
- 雑誌
- 国際学術研究
- 巻号頁・発行日
- 1994
本研究ではニュージーランドで発生した(1)神経性貝毒(2)カキの新奇毒成分(3)麻痺性貝毒の3種の貝毒を対象として情報の交換、試料の収集、原因毒の解明についての共同研究を実施した。研究実績の概要は下記の通りである。1。神経性貝毒1992年12月から1993年の1月にかけて発生した食中毒について、疫学調査、発生プランクトンの種類、及び毒の薬理作用についての予備試験結果から神経性貝毒であろうと推定し、原因毒の単離・構造決定を実施した。共同研究者の協力により約270kgのイガイ中腸腺を入手した。原因プランクトンとしてはGymnodinium breveまたはその近似種が示唆されていた。本種はブレベトキシン類を生産することが知られているが、イガイからは既知のブレベトキシン類は検出されなかった。代わってブレベトキシンの新奇類縁体3成分が単離された。成分1はC_<53>H_<79>NO_<17>S(MW:1033)の分子式を有し、ジアステレオマ-4成分の混合物と推定された。成分2では42位炭素がカルボキシル基に酸化され、さらにD環が開環しており、新たに生じた10位の水酸基に脂肪酸がエステル結合していると推定された。成分3はブレベトキシンBの基本骨格を保持し、側鎖に修飾を受けた新奇物質と推定された。現在立体配置を含めた構造の確認を進めている。成分1と3ではマウス致死毒性およびNaチャンネル活性化作用が確認された。2。カキの新奇毒成分1993年に南島南端のFoveaux海峡周辺でカキが毒化した。原因プランクトンはGymnodinium cf.mikimotoiと推定された。毒化したカキの試料約60kgを入手し、その30kgをアセトンで抽出して原因毒の単離・精製を行った。その結果、原因毒は分子式C_<32>H_<45>NO_4(MW:507)を有する新奇イミンであることを確認したのでジムノジミン(gymnodimin)と命名した。ジムノジミンは分子内に16員の大きな炭素環、6員環イミン、ブテノリド環を含む特異な構造を有する。既に平面構造を確定し、現在は絶対構造の確認を目指して誘導体の調製を行っている。ジムノジミンのマウス腹腔内投与による最少致死量は450μg/kgを示した。小型淡水魚のアカヒレを用いた魚毒性試験で求めた最少致死濃度は0.10ppm(20nM)であり、魚類に対して強力な毒性を示すことが明らかになった。細胞毒性や溶血性は認められず、培養細胞を用いたNaチャンネル活性試験でも顕著な活性は検出されなかった。共同研究者から提供を受けたG.cf.mikimotoiを培養し、その抽出物をLC/MSで分析したところジムノジミンが検出され、本種が毒の起源であることが確認された。3。麻痺性貝毒麻痺性貝毒を生産する渦鞭毛藻としてはAlexandrium属、Gymnodinium属、及びPyrodinium属が知られているが、ニュージーランドではA.minutum及びA.ostenferdiiの出現が確認されている。同国内で採集されたA.minutumの1株及び異なる地域で採集されたA.ostenferdiiの5株について、培養を行い毒生産能の確認及び毒組成の分析を行った。その結果、A.ostenferdiiの1株は無毒であり、この無毒株も含めて5タイプに区別され、多様な毒組成を示した。同国内のA.minutumはほぼ同じ組成を示したが、著量のサキシトキシンとネオサキシトキシンを生産する点に特徴が見られた。