著者
田中 朋之 KHAN NADAR KHAN Nadar
出版者
京都大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2009

コメは全世界の約半数以上の人々が主食とする重要な食糧であり、特にアジアの発展途上国では貴重なタンパク源でもある。そこで、パキスタンで収集された約300種類のイネ在来品種・系統における種子貯蔵タンパク質の種内変異を評価した。その結果、主要な貯蔵タンパク質グルテリンのα鎖に関して、ポリペプチドの数と蓄積量に関し大きな変異があることが認められた。特に、リジン含有率の高いグルテリンサブユニットGluB4を認識するanti-B4(No.4b)抗体に対する反応性が品種・系統ごとに大きく異なり、その反応性の違いから、3つのグループに分類できた。その変異パターンと収集地域(N.W.F.P,Punjab,Balochistan,Sind,Azad Jamu Kashmir)ごとに特徴的な農業生態系との間には関連性は認められなかった。一方、グルテリンα鎖における変異の他に、グルテリン前駆体を高蓄積する品種・系統が多く見出された。グルテリン前駆体を高蓄積する品種・系統の出現頻度は、5つの農業生態系により異なり、Punjab由来の品種・系統で最も出現頻度が高く(22%)、次いでSind由来の品種・系統(13%)、Balochistan由来の品種・系統(3%)であり、N.W.F.PとAzad Jammu Kashmir由来の品種・系統には認められなかった。パキスタン由来のイネ遺伝資源におけるそれらの出現頻度は、世界のイネ・コアコレクション約60種類の中で見出された頻度に比べ著しく高かった。世界のイネ・コアコレクションで見出されたグルテリン前駆体を高蓄積する品種・系統が、インド由来の良食味系統local basmati(collection number 40)であったことから、南アジア地域における良食味系統の分布と、グルテリン前駆体を高蓄積する系統の分布との間に関連があることが推察された。