著者
杉浦 克己 Katsumi Sugiura
雑誌
放送大学研究年報 = Journal of the University of the Air (ISSN:09114505)
巻号頁・発行日
vol.16, pp.252(25)-237(40), 1999-03-31

古語拾遺は大同二(八〇七)年、斎部広成が、平城天皇の朝儀についての召問に答えて撰上したものである。国語史の分野では、特に万葉仮名書の語句を貴重な上代語の資料として重視し、この方面からの研究を中心に内容全体の解釈に資する研究が進められてきた。しかし、現存伝本は中世以降のもののみであり、本文に注された訓読そのものを中心とした研究は必ずしも多くはなかった。 今般、主要な伝本の訓読を調査し、相互に比較検討することによってその特色を明らかにする作業に着手し、先ず第一段階として現存最古の完本である「嘉禄本」及び「暦仁本」(共に天理図書館蔵)を取上げ、訓読の歴史的な変遷とたどる上での指標となる、いわゆる「使役句形」の訓読を個々の例について比較することによって、各々の訓読上の特色考える上での見通しを得ることを試みた。 この結果、嘉禄本は中世の吉田(ト部)家ゆかりの『日本書紀』諸伝本に見える訓読に近い性格を持っていること、暦仁本も基本的には同様であるが、若干の部分についてこれとは異なる性格を併せ持つ可能性があること、の二点を明らかにすることができた。 今後この見通しの元、詳細な訓読の比較検討を試みると共に、他の伝本についても考察の範囲を順次拡大して行きたい。
著者
杉浦 克己 Katsumi Sugiura
雑誌
放送大学研究年報 = Journal of the University of the Air (ISSN:09114505)
巻号頁・発行日
vol.17, pp.238(1)-212(27), 2000-03-31

古語拾遺の諸本を一瞥すると、本文漢字複数字を一まとまりとして訓を充てた例が比較的多いことが目に付く。本稿ではこれらのうち特に本文漢字二文字の例を仮に「熟語」と呼んで抽出し、諸伝本に見えるその訓読を蒐集・分析した。 訓点資料に見える熟語は、元漢文の著者自身の漢字の用法によるものと、加点者の解釈の結果として熟語として読まれているものがあると考えられ、しかもこの両者は表裏の関係にあると言える。諸伝本に見える同箇所への加点を比較検討し、他の漢文文献などの例も参照しつつこの二者の関係を明らかにしょうとするのが本稿のねらいである。更にこれを手がかりとして、元漢文が一定の訓読を想定して書かれたものである可能性の有無を検証したいと考えた。当該例七七三の個々についての分析は未だ半ばなのではあるが、これに直接関係しそうないくつかの例を得ることができた。