著者
大石 和欣 Kazuyoshi Oishi
雑誌
放送大学研究年報 = Journal of the University of the Air (ISSN:09114505)
巻号頁・発行日
vol.24, pp.85-92, 2007-03-31

本論考はいわゆるロマン主義時代における女性詩において、引喩が政治的な意味をもちながらどのように機能したのか、その多様な形態を探るものである。クリストファー・リックスによる『詩人への引喩』(2002年)は、英詩における間テクスト性の地図を書き換えたものだが、男性詩の伝統の中で吟味しているにすぎない。女性詩における広大な間テクスト性の領域を無視している。また、詩的引喩に埋め込まれた引喩のイデオロギー的な意味についても看過している。18世紀の女性は、ちょうど遺産相続や財産権から排除されていたと同様に、相続できる確立された文学的伝統があったわけではなかった。しかしながら、だからといって女性詩に間テクスト性がないということにはならない。それどころか、感受性文化の枠組みのなかで、女性たちは詩的引喩を用いながら、独自の言語とスタイルを作り上げる可能性を探り出していったのだ。おおっぴらに「公共圏」に参与する資格がないことを自覚していた彼女たちは、さまざまなテクストや社会的文脈にたいする引喩の中に、個人的なメッセージだけではなく、社会的・政治的メッセージを含みこんでいったのである。それは新しい形での「公共圏」への参与なのである。「公共圏」へ参入しようと試みながら、政治的メッセージを抱えた詩的引喩が錯綜して生み出す効果について明らかにしてみる。
著者
吉岡 一男 Kazuo Yoshioka
雑誌
放送大学研究年報 = Journal of the University of the Air (ISSN:09114505)
巻号頁・発行日
vol.17, pp.107-120, 2000-03-31

夜空が何故暗いか? という疑問が17世紀に指摘されて以来,一部の天文学者を悩ましていた.それは,恒星が宇宙空間に無限に広がって輝いているならば夜空が昼間よりもはるかに明るいことになる,という現実とは異なる結論が導かれるからである.これをオルバースのパラドックスという.それを回避するために,宇宙有限説,孤立宇宙説,無限階前説,吸収説など様々な説が唱えられた.しかし,いずれの説も成り立たないことがわかった. 現在,ハッブルの法則に従う宇宙の膨張によりこのパラドックスが回避されると考えられている.すなわち,宇宙の膨張から帰結される宇宙年齢の有限性と宇宙の膨張に伴う膨張効果(ドップラー効果と希釈効果)によりパラドックスは回避される. しかし,通俗書に書かれているパラドックスの記述には,歴史の記述が不正確であったり,パラドックスの回避の説の記述が誤解を招いたり誤っている本が見られる.また,宇宙年齢の有限性の効果の方が膨張効果よりも圧倒的に効くのにその記述も見られない. 一方,宇宙の膨張を持ち出さなくても恒星の寿命が有限で空間密度が低いことでパラドックスを回避できる,と考えることもできるが,その場合も現在恒星が輝いていることの自然な説明を宇宙の膨張が与えることを指摘した.また,パラドックスが認識されるためには,背景となる理論が確立されている必要のあることも指摘した.
著者
橋本 裕蔵
出版者
放送大学
雑誌
放送大学研究年報 = Journal of the University of the Air (ISSN:09114505)
巻号頁・発行日
no.16, pp.93-110, 1999-03-31

わが国には,「公の事務を処理乃至は司る地位にある者がその地位を利用して不正の利益を得る行為」自体を罰する法はない.これと類似の犯罪類型として現行刑法には収賄罪がある.だが,これはその主体が「公務員又は仲裁人」又は「公務員」に限定され,「その職務に関し」という文言から「職務権限」,「賄賂を(収受し)」という文言から「賄賂性の認識」という要件が本罪成立の不可欠要件とされ,その為,収賄罪の成立範囲は限定されざるを得ない. これに対して,アメリカ合衆国にはextortionという犯罪類型がある.コモンローにルーツがあるextortionはthe Hobbs Act(1946)で明文化され現在に至っている.extortionはbriberyとは別の犯罪類型として公務員その他の公の職にある者による地位利用利得行為を犯罪化し,連邦訴追機関の重要な武器となっている。 1992年,Evans v.United Statesで合衆国最高裁判所はextortion"under color of official right"(公務の外観をとるextortion)には公務員によるinducement(一定の利益を要求するなどの誘引)は要件とはならない旨判示し,いわゆる,「口利き」により得た利益を選挙運動への寄付として受領したものだとする被告人側主張を退け,inducementを伴わないextortion"under color of official right"の成立を認め,これまでinducementの要否に付き意見の分かれていた連邦控訴裁判所の法運用に一つの解決を示した. 公の職にある者に対する規律に厳しすぎるということはない.アメリカ合衆国のextortion法の形成過程はわが国の法運用に大きな参考となるであろう.否,この種の違法行為が国単位で可罰的とされあるいは不可罰とされることには犯罪抑止に向けた国際協力に水を差すことにもなりかねないという危惧がある. 法定の職務に忠実でないという狭い意味での収賄罪だけでなく,職務を利用して利得する公務員や公の事務を処理乃至は司る地位にある者全ての行為を可罰的とする「犯罪化」は,現在のわが国の政治家公務員,上級公務員その他公の職にある者の行為を規律するうえでも真剣に考えるべきことの一つであるように思われる.
著者
杉浦 克己 Katsumi Sugiura
雑誌
放送大学研究年報 = Journal of the University of the Air (ISSN:09114505)
巻号頁・発行日
vol.16, pp.252(25)-237(40), 1999-03-31

古語拾遺は大同二(八〇七)年、斎部広成が、平城天皇の朝儀についての召問に答えて撰上したものである。国語史の分野では、特に万葉仮名書の語句を貴重な上代語の資料として重視し、この方面からの研究を中心に内容全体の解釈に資する研究が進められてきた。しかし、現存伝本は中世以降のもののみであり、本文に注された訓読そのものを中心とした研究は必ずしも多くはなかった。 今般、主要な伝本の訓読を調査し、相互に比較検討することによってその特色を明らかにする作業に着手し、先ず第一段階として現存最古の完本である「嘉禄本」及び「暦仁本」(共に天理図書館蔵)を取上げ、訓読の歴史的な変遷とたどる上での指標となる、いわゆる「使役句形」の訓読を個々の例について比較することによって、各々の訓読上の特色考える上での見通しを得ることを試みた。 この結果、嘉禄本は中世の吉田(ト部)家ゆかりの『日本書紀』諸伝本に見える訓読に近い性格を持っていること、暦仁本も基本的には同様であるが、若干の部分についてこれとは異なる性格を併せ持つ可能性があること、の二点を明らかにすることができた。 今後この見通しの元、詳細な訓読の比較検討を試みると共に、他の伝本についても考察の範囲を順次拡大して行きたい。
著者
島内 裕子 Yuko Shimauchi
雑誌
放送大学研究年報 = Journal of the University of the Air (ISSN:09114505)
巻号頁・発行日
vol.15, pp.138(1)-119(20), 1998-03-31

本稿は、従来あまり知られていない吉田健一の翻訳や初出誌など、管見に入ったものを紹介しながら、主として、昭和二〇年代から四〇年代までの彼の文学活動を概観する。 特に昭和二四年六月から昭和三五年八月まで、中断を挟みながらも通巻四八号にわたって刊行された『あるびよん』は、当時の吉田健一にとって、作品発表の舞台の一つとなった雑誌であり、そこに寄稿した評論やエッセイなどは、後にいくつかの単行本に再録されて、彼の英文学論を形成するものとなっている。また、『あるびよん』に掲載された座談会や鼎談などは、その性格上、彼の著作には直接入らないが、そこでの発言は彼の文学観や人間観を知るうえで重要なものであるし、その後どの単行本にも収められなかったごく短いエッセイなどもある。現在最も詳細な集英社版『吉田健一著作集』全三〇巻補巻二巻は、補巻を除いて、単行本として刊行されたものに限り収録しているので、これらの小エッセイは見過ごされがちであり、年譜などに記載されていないものもある。また、現代においては、吉田健一と言えば評論家というイメージが強いが、翻訳家としての側面も忘れてはならず、その翻訳の中に、年譜類に記載されていないものがあり、さらに、日本の古典の現代語訳の仕事も行なっている。 吉田健一の文学世界は実に多彩で多様であるが、その本質を究明するためには『吉田健一著作集』に収録されていない短いエッセイや、数々の翻訳書なども含めて研究する必要があるし、初出誌と単行本でどのような推敲や改変が行なわれているかを調査することも必要となってくるであろう。本稿では、そのような観点から、吉田健一の文学活動の一端を考察するものである。
著者
渡邊 信夫 Nobuo Watanabe
雑誌
放送大学研究年報 = Journal of the University of the Air (ISSN:09114505)
巻号頁・発行日
vol.18, pp.151-168, 2001-03-31

この研究は,北奥州に位置する八戸藩を対象として,八戸城下町と大坂との間に都市間海運が展開したことを論証しようとするものである.近世における都市間海運は,菱垣廻船,樽廻船による海上輸送を主とする大坂・江戸間海運を典型とする.先に,江戸・仙台間の海上輸送を担った石巻穀船の運行形態,積荷などを分析し,両地間に都市間海運の展開がみられることを論証した.本稿は同じ東廻海運における八戸と江戸,八戸と大坂間の海運においても都市間海運の展開がみられることを論証し,合わせて近世海運の特性を明らかにしょうとするものである. 文政2年,八戸藩は江戸・大坂方面に移出される国産品の専売制を実施した.その担当機関として城下に国産方を設置し,藩役人のほか城下町の有力商人をその業務にあたらせ,国産品の大坂交易に乗り出した.その結果,八戸港出入津の廻船は国産方を相手とする交易となり,さらに,藩は八戸・大坂聞の国産品の移出船を藩の雇船とし定期的な海上輸送を確保した.藩は,文化11年中大坂に「大坂御国産支配元」という大坂・八戸間の交易を担当する流通機関を設置した.藩は,支配元に就任した大坂商人柳屋又八との間に「諸国規定」を締結した.この約定は,輸送船を藩の雇船とし,支配元が雇船の調達,八戸・大坂間における国産品の海上輸送,大坂での販売を一手に請負うことを基本とするものであった.幕府の御城米,藩の蔵米輸送の場合と同じく,雇船の採用,空船条項もあるが,空船確認は雇船調達地でなく,八戸港で積み出す時点での混載の有無の確認であった.空船確認が幕藩より弱いのはまだ雇船調達を大坂に依存しなければならなかった事情の反映であった.幕末期にいたると,藩の手船を主体とする大坂交易となる.しかも,八戸藩は複数のルートによる大坂交易を行なうようになり,大坂での御船調達依存も弱まり,藩の海運支配が強化されるのである.
著者
吉岡 一男
出版者
放送大学
雑誌
放送大学研究年報 = Journal of the University of the Air (ISSN:09114505)
巻号頁・発行日
no.16, pp.211-228, 1999-03-31

おうし座RV型星は,主極小と副極小を交互にくり返す光度変化に特徴がある半規則的な脈動変光星である.この変光星は,光度変化をもとに,RVa型とRVb型に細分類されており,RVb型は脈動周期の光度変化に重なって長周期の光度変化が見られるのに対して,RVa型ではそのような長周期変化は見られない. われわれは,国立天文台堂平観測所の91cm反射望遠鏡の多色偏光測光装置を用いて,この星の多色偏光測光観測を行っている. その結果,現在までに観測された17個のおうし座RV型星の中で,ふたご座SU星,いっかくじゅう座U星,おうし座RV星の3個の星で,偏光が長周期の時間変動をしていることを検出した.これら3個の星はすべてRVb型である.そして,観測された偏光の長周期時間変動は周期的で,その周期は長周期光度変化の周期と大体一致しているようである.この長周期の時間変動はおうし座RV星のほうが,いっかくじゅう座U星よりも顕著である.一方,観測誤差が大きいので,ふたご座SU星に対しては,長周期時間変動の大きさについては,明確な結論は下せない.さらに,偏光の長周期時間変動の特徴から判断すると,RVb現象の説明の1つとして提案されてる星周圏ダスト殻を伴う伴星による単純な掩蔽によっては,この時間変動が引き起こされてはいないようである.
著者
吉岡 一男 Kazuo Yoshioka
雑誌
放送大学研究年報 = Journal of the University of the Air (ISSN:09114505)
巻号頁・発行日
no.12, pp.137-150, 1995-03-30

おうし座RV型変光星は,F型からK型にわたるスペクトル型をもつ超巨星の脈動変光星で,その変光はセファイドほど規則的ではなく,しばしば変光周期や変光の振幅が変化している.この変光星の特徴は,深い極小光度と浅い極小光度を交互に示すことで,相次ぐ2つの主極小光度の間の変光周期は,30日から150日の範囲にある. この変光星の可視域のスペクトルに基づいた分類によれば,A,B,Cの3つのグループに分類されている.A,Bグループはそれぞれ酸素過剰と炭素過剰のスペクトルを示し,CグループはCH,CN等の吸収帯が見えない点を除き,Bグループと似たスペクトルを示している.一方,星周圏の放つ赤外放射のエネルギー分布により,この変光星は酸素過剰および炭素過剰な星周圏ダストの放射を示す2種類に大別されている.ところが,Bグループの星の中に,酸素過剰な赤外放射の分布の特徴を示すものが観測されている. そこで,両分類の関係を調べるために,国立天文台堂平観測所の91cm反射望遠鏡の多色偏光測光装置を用いて,13個のおうし座RV型変光星を観測した.ここでは,その内の7個の星の解析結果を報告する.得られた主な結論は,次のとおりである.1)多くのおうし座RV型変光星は,固有の偏光成分を示す.2)観測された偏光度は,極大光度時よりも極小光度時の方が大きい傾向を示す.3)B,Cグループでは、観測された偏光度が,とくに極小光度時近くで0.6μmあたりで極大になる傾向を示す.4)Aグループに属するふたご座SS星では,固有の偏光度や偏光位置角が,極小光度時近くで波長とともに増す傾向がわずかに見られる.
著者
島内 裕子 Yuko Shimauchi
雑誌
放送大学研究年報 = Journal of the University of the Air (ISSN:09114505)
巻号頁・発行日
vol.23, pp.132(11)-119(24), 2006-03-31

江戸時代には、木版印刷によってさまざまな文学作品が刊行されたが、それらの中でも徒然草は、わかりやすく教訓的な作品として、広く親しまれた。本文だけのものから、挿絵付きのもの、頭注付きのもの、詳細な注釈書など、徒然草はさまざまなスタイルで刊行されている。けれども、徒然草は文学作品として読まれただけではない。絵巻や色紙や屏風に描かれて、美術品・調度品としても鑑賞された。 本稿では、描かれた徒然草の中から、熱田神宮献納・伝住吉如慶筆「徒然草図屏風」と、米沢市上杉博物館蔵「徒然草図屏風」の二点を取り上げる。このたび、詳細に現物調査することによって、描かれた章段を特定することができた。前者は徒然草から一連の仁和寺章段を抽き出して描いた屏風、後者は徒然草から二十八場面を描いた屏風である。 この調査を踏まえて、それぞれの屏風の抽出章段の特徴や、図柄の描き方の特徴、屏風の制作目的などについても考察を加えた。さらに、絵巻や色紙に描かれる場合との違いを通して、徒然草が屏風に描かれることの意味と意義について考えてみた。
著者
杉浦 克己 Katsumi Sugiura
雑誌
放送大学研究年報 = Journal of the University of the Air (ISSN:09114505)
巻号頁・発行日
vol.17, pp.238(1)-212(27), 2000-03-31

古語拾遺の諸本を一瞥すると、本文漢字複数字を一まとまりとして訓を充てた例が比較的多いことが目に付く。本稿ではこれらのうち特に本文漢字二文字の例を仮に「熟語」と呼んで抽出し、諸伝本に見えるその訓読を蒐集・分析した。 訓点資料に見える熟語は、元漢文の著者自身の漢字の用法によるものと、加点者の解釈の結果として熟語として読まれているものがあると考えられ、しかもこの両者は表裏の関係にあると言える。諸伝本に見える同箇所への加点を比較検討し、他の漢文文献などの例も参照しつつこの二者の関係を明らかにしょうとするのが本稿のねらいである。更にこれを手がかりとして、元漢文が一定の訓読を想定して書かれたものである可能性の有無を検証したいと考えた。当該例七七三の個々についての分析は未だ半ばなのではあるが、これに直接関係しそうないくつかの例を得ることができた。
著者
島内 裕子 Yuko Shimauchi
雑誌
放送大学研究年報 = Journal of the University of the Air (ISSN:09114505)
巻号頁・発行日
no.23, pp.132(11)-119(24), 2006-03-31

江戸時代には、木版印刷によってさまざまな文学作品が刊行されたが、それらの中でも徒然草は、わかりやすく教訓的な作品として、広く親しまれた。本文だけのものから、挿絵付きのもの、頭注付きのもの、詳細な注釈書など、徒然草はさまざまなスタイルで刊行されている。けれども、徒然草は文学作品として読まれただけではない。絵巻や色紙や屏風に描かれて、美術品・調度品としても鑑賞された。 本稿では、描かれた徒然草の中から、熱田神宮献納・伝住吉如慶筆「徒然草図屏風」と、米沢市上杉博物館蔵「徒然草図屏風」の二点を取り上げる。このたび、詳細に現物調査することによって、描かれた章段を特定することができた。前者は徒然草から一連の仁和寺章段を抽き出して描いた屏風、後者は徒然草から二十八場面を描いた屏風である。 この調査を踏まえて、それぞれの屏風の抽出章段の特徴や、図柄の描き方の特徴、屏風の制作目的などについても考察を加えた。さらに、絵巻や色紙に描かれる場合との違いを通して、徒然草が屏風に描かれることの意味と意義について考えてみた。
著者
吉岡 一男 Kazuo Yoshioka
雑誌
放送大学研究年報 = Journal of the University of the Air (ISSN:09114505)
巻号頁・発行日
no.18, pp.133-149, 2001-03-31

おうし座RV型星は,主極小と副極小を交互にくり返す光度変化に特徴がある半規則的な脈動変光星である.この変光星は,光度曲線をもとにRVa型とRVb型に細分類されており,RVb型が脈動周期の光度変化に重なって長周期の光度変化が見られるのに対して,RVa型にはそのような長周期変化は見られない.また,この変光星は可視域のスペクトルをもとに,酸素過剰なAグループと炭素過剰なB,Cグループに細分類されている. われわれは,国立天文台堂平観測所の91cm反射望遠鏡を用いて,おうし座RV型星の多色偏光観測を行った.観測された17個の星の内,4個の星に対して星間偏光成分を取り除いて固有偏光成分を求めた.星間偏光成分は,near-neighbor法で決定された.われわれが得た星間偏光成分の偏光位置角は,他の観測者の得た値に近いが,われわれが得た星間偏光成分の偏光度のいくつかは,他の観測者の値と大きく異なる.われわれの得た値は,星間偏光に対してより根拠のある仮定に基づいているので,より信頼度が高い. われわれの求めた固有偏光成分は,いっかくじゅう座U星を除き,星周圏ダストの幾何的配置が時間変動をしないことを示唆している.さらにわれわれの結果は,Aグループの星で観測された偏光度が中間の波長で極大値をとる傾向がある,というわれわれがすでに得ている結果を支持している.
著者
吉岡 一男 Kazuo Yoshioka
雑誌
放送大学研究年報 = Journal of the University of the Air (ISSN:09114505)
巻号頁・発行日
no.21, pp.237-249, 2004-03-31

おうし座RV型星は、主極小と副極小を交互にくり返す光度変化に特徴がある半規則的な変光星である。この変光星は、可視域のスペクトルをもとに、酸素過剰なAグループと炭素過剰なB,Cグループに細分類されている。 われわれは、国立天文台堂平観測所の91cm反射望遠鏡を用いて、おうし座RV型星の多色偏光観測を行った。観測された17個の星の内、12個に対してはすでに星間偏光成分を取り除いて固有偏光成分を求めている。 本論文では、さらに3個の星に対して固有偏光成分を求めた。星間偏光成分はnearneighbor法を一部変えた方法で求めた。求めた星間偏光成分の内、偏光位置角の決定誤差は小さいが、偏光度の決定誤差は大きいので、決定的なことはいえない。しかし今回は、Aグループの星の固有偏光成分の偏光度が中間の波長域で極大値をとり、Bグループの星では中間の波長域で極小値をとるというこれまで得られてきた傾向とは逆の結果が得られた。このことは、星周圏ダスト殻の数が必ずしもA,Bグループと相関してはいないことを示唆しているのかも知れない。
著者
吉岡 一男 Kazuo Yoshioka
雑誌
放送大学研究年報 = Journal of the University of the Air (ISSN:09114505)
巻号頁・発行日
no.15, pp.71-90, 1998-03-31

おうし座RV型星は光度曲線をもとに,RVa型とRVb型に分類されている.また,可視域のスペクトルをもとに,酸素過剰のAグループと炭素過剰のB,Cグループに分類され,さらに,AグループはTio帯の有無をもとに,A1,グループとA2グループに細分されている.さらにまた,赤外放射のエネルギー分布をもとに,この星は酸素過剰グループと炭素過剃グループに分類されている. ところが,可視域での分類と赤外放射での分類が必ずしも対応しておらず,可視域で炭素過剰なスペクトルを示しながら,酸素過剰な赤外放射を示すものがある. そこで,両分類の関係を調べるために,おうし座RV型星の多色偏光観測を行っている.観測は,国立天文台堂平観測所の91cm反射望遠鏡に多色偏光測光装置を取り付けて行っている.現在までに17個のおうし座RV型星が観測され,次の結果が得られている。1)多くの星で偏光の時間変動が観測され,固有の偏光成分をもつことが確認された.2)時間変動の検出率は,RVa型よりもRVb型が高く,また,A2グループよりもA1グループの方が高い.3)Aグループでは,偏光度pが中聞の波長域で極大値をもつ傾向があるのに対して,B,Cグループでは,pが中間の波長域で極小値をもつ傾向がある.4)U MonやRV Tauでは,長期的な時間変動が見られる.この変動は周期的で,周期がそれぞれの星の光度変化の振幅の長期的変化の周期に近いようである. 以上の結果の解釈も述べられている.
著者
吉岡 一男 Kazuo Yoshioka
雑誌
放送大学研究年報 = Journal of the University of the Air (ISSN:09114505)
巻号頁・発行日
no.19, pp.95-112, 2002-03-31

おうし座RV型星は、主極小と副極小を交互にくり返す光度変化に特徴がある半規則的な変光星である。この変光星は、光度変化をもとにRVa型とRVb型に細分類されており、RVb型が脈動周期の光度変化に重なって長周期の光度変化を示すのに対して、RVa型にはそのような長周期変化は見られない。また、この変光星は可視域のスペクトルをもとに、酸素過剰なAグループと炭素過剰なB,Cグループに細分類されている。 われわれは、国立天文台堂平観測所の91cm反射望遠鏡を用いて、おうし座RV型変光星の多色偏光観測を行った。観測された17個の星の内、4個の星に対してはすでに星間偏光成分を取り除いて固有偏光成分を求めている。 本論文では、さらに2個の星、おうし座RV星とヘルクレス座AC星の固有偏光成分の特徴を報告する。星間偏光成分はnear-neighbor法を一部変えた方法で求めた。ヘルクレス座AC星に対して求めた星間偏光成分の方が信頼度は高い。 おうし座RV星に対する星間偏光成分は小さいので、その特徴は観測された偏光に対するものと大きくは違わない。この星の固有偏光成分は、脈動周期に伴う時間変動とともに長周期光度変化に伴う変動も行う。この星の固有偏光成分の偏光度は中間の波長域で極大値をとり、Aグループの星の傾向に従う。ヘルクレス座AC星の固有偏光成分は、脈動周期に伴う時間変動とともに公転周期に伴う変動も行う。この星の固有偏光成分の偏光度は、短波長側で波長の滅少とともに増加するが、これはこの星の星周圏ダストが2種類の異なるサイズをもっことを示唆している。
著者
渡邉 融 Tohru Watanabe
雑誌
放送大学研究年報 = Journal of the University of the Air (ISSN:09114505)
巻号頁・発行日
vol.17, pp.162(77)-143(96), 2000-03-31

目的 蹴鞠道飛鳥井家の元禄・宝永年間の当主雅豊の日記によって当時の蹴鞠道家の年間蹴鞠暦を復元し、近世蹴鞠道家の活動の実態を明らかにしょうとした。そして、重要事項が何であり、それらが如何に遂行されたかを把握しようとした。 結果(一)蹴鞠道で最も重要な年中行事は正月四日の鞠始めと七月七日の七夕鞠であった。これらは蹴鞠道の当主と公家・地下の門弟が参加して行われた。鞠始めは蹴鞠道の年頭の儀式である。七夕鞠は気巧奠の日であり、技の上達を祈願する意味をもっていた。(二)蹴鞠道家で最も頻繁に行われた行事は、京都在住の公家・地下門弟たちの蹴鞠例会であった。これらは、公家・地下の身分別に、地下門弟はさらに上・中・下の三組に分れて、月に一乃至二回の割合で、かなり組織的に行われていた。(三)門弟に免許を授けることは蹴鞠道家にとって重要な仕事であった。蹴鞠免許には冠懸緒の免許と蹴鞠色目の免許との二種類があった。前者に関する記事は年に数件ずつ認められたが、後者に関しては公家門弟向けのものが若干見られただけで、地下門弟のものは殆ど記録されておらず、史料的には不十分であった。