著者
Kina Ikue 喜納 育江
出版者
琉球大学法文学部
雑誌
琉球大学欧米文化論集 = Ryudai Review of Euro-American Studies (ISSN:13410482)
巻号頁・発行日
no.43, pp.9-26, 1999-03

1981年に出版されたレスリー・マーモン・シルコーのStoryrellerは、様々な語りの手法によって作者の共同体意識を表現した物語を集めた作品である。この論文では、Storyrellerの中の短編小説「イエローウーマン」に注目し、ケレス語族プェプロインディアン共同体に伝統的に語り継がれてきたイエローウーマン物語を、シルコーが現代の語り部としてどのような意義で語り継いでいるかを見ていく。ポーラ・ガン・アレンの指摘するように、シルコーの「イエローウーマン」は、確かに伝統と同じモチーフを採用しているという点で、アメリカ先住民女性の語りの伝統の一端を担う作品と言えるが、さらにシルコーの語り部としての独創性を問うならば、過去の物語の伝統的な要素は、この物語の語り手である先住民女性の意識に顕在する作家の現代意識と融合することによって、現代社会の新たな文脈の中でのアメリカ先住民女性の新たな意識を表現していると言える。この論文では、まずアメリカ先住民にとって口承伝承がどのような文化的意義を有する伝統であったかを考察し、そうした伝統の流れの中で再び語られる「イエローウーマン」において、シルコーの自己意識が、共同体意識と連関しつつも、共同体の伝説としてのイエローウーマン物語にどのような独自性を加えていったかという過程を検証する。