著者
喜納 育江
出版者
琉球大学
雑誌
奨励研究(A)
巻号頁・発行日
1997

本年度は、前年度に調査、収集した資料をもとに、19世紀アメリカにおけるアメリカ先住民女性の作家として、いかにして当時の白人中心的イデオロギーと折衝する言説を作り出しているかという点を検証の中心課題とした。特に、本年度においては、米国国会図書館の特別資料閲覧室で収集した19世紀から20世紀にかけてアメリカの大衆文化の中心的役割を果たしたダイムノベル(Dime Novels)に関する資料から、ダイムノベルが、モーニングドーブの文学的創造性にどのように関わっているかに着目した論文を作成することに専念した。ダイムノベルとは、印刷と流通のシステムの近代化による文化の物質的な変容によって誕生したいわゆる三文の大衆小説であるが、量産され、大衆化される文学の中で作り出される言説は、同時に、そこで好んで描かれた西部やアメリカ先住民などのイメージをステレオタイプ化する大衆の意識を形成するプロセスにも加担していた。白人文化の優勢の結果として形成された大衆意識に対し、拙論文では、まず、ダイムノベルによって作り出されたアメリカ先住民の大衆的イメージとは具体的にどのようなものであったかを示し、次に、社会的他者の作家であるモーニングドーブにとって、そのようなステレオタイプに抵抗する意識が、小説の定義する問題とヒロイン像決定の重要な背景になっていたことを究明した。以上の成果を、「ダイムノベルと20世紀初頭の大衆的イメージへのモーニングドーブの文学的抵抗(“Dime Novels and Mourning Dove's Literary Resistance to Turn-of-the-Century Mass Images")」と題し、1998年10月にカナダ、アルバータ州で開催された西部文学会(米国)とカナダアメリカ研究学会の合同学会で口頭発表した。
著者
Kina Ikue 喜納 育江
出版者
琉球大学法文学部
雑誌
琉球大学欧米文化論集 = Ryudai Review of Euro-American Studies (ISSN:13410482)
巻号頁・発行日
no.43, pp.9-26, 1999-03

1981年に出版されたレスリー・マーモン・シルコーのStoryrellerは、様々な語りの手法によって作者の共同体意識を表現した物語を集めた作品である。この論文では、Storyrellerの中の短編小説「イエローウーマン」に注目し、ケレス語族プェプロインディアン共同体に伝統的に語り継がれてきたイエローウーマン物語を、シルコーが現代の語り部としてどのような意義で語り継いでいるかを見ていく。ポーラ・ガン・アレンの指摘するように、シルコーの「イエローウーマン」は、確かに伝統と同じモチーフを採用しているという点で、アメリカ先住民女性の語りの伝統の一端を担う作品と言えるが、さらにシルコーの語り部としての独創性を問うならば、過去の物語の伝統的な要素は、この物語の語り手である先住民女性の意識に顕在する作家の現代意識と融合することによって、現代社会の新たな文脈の中でのアメリカ先住民女性の新たな意識を表現していると言える。この論文では、まずアメリカ先住民にとって口承伝承がどのような文化的意義を有する伝統であったかを考察し、そうした伝統の流れの中で再び語られる「イエローウーマン」において、シルコーの自己意識が、共同体意識と連関しつつも、共同体の伝説としてのイエローウーマン物語にどのような独自性を加えていったかという過程を検証する。
著者
喜納 育江
出版者
琉球大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2006

本研究では、アメリカ南西部における米墨国境地帯の文化的「境域」におけるチカーノとアメリカ先住民の文学について、これらの文学が、国境線で分断された故郷や大地とのつながりを求める先住民としての想像力を共有していることを明らかにした。特に、国内の研究成果が皆無に等しかったチカーナ文学の文学的想像力に注目し、チカーナと先住民文化の関係を明らかにする複数の研究論文を発表した。