著者
長塚 仁 LEFEUVRE M.B.
出版者
岡山大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2010

我々の研究グループは、頭頸部扁平上皮癌における新規癌抑制遺伝子候補の同定のために、ヘテロ接合性消失解析(LOH解析)を行ってきた。これまでの研究成果では、染色体1p36において高頻度にLOHが生じている3つの領域を新たに同定し、新規癌抑制遺伝子候補としてp73、DFFB、UBE4B、RIZ、Rap1GAP、EphB2、RUNX3を同定した。本研究ではこれらの新規癌抑制遺伝子候補について機能解析を行う。平成23年度はRIZ遺伝子について継続して研究を行うとともに、LOH解析で11p15.2領域に新たに同定したDkk-3遺伝子の機能解析を行った。RIZ遺伝子についての研究では、頭頸部扁平上皮癌組織を用いて、これまで他臓器で報告されていたP704 polym OrphismとAsp283Glu polymorphismの二種類の遺伝子多形が頭頸部扁平上皮癌でも生じていることが明らかとなった。polymorphismの有無と臨床データとの相関を検討したところ、P704polymorphismを有する群は、wild type群よりも無疾患生存率、期間生存率ともに長い傾向を示した。また、Asp283Glu polymporphism群は、wild type群に比較して、無疾患生存率、期間生存率ともに短い傾向を示した。RIZの頭頸部扁平上皮癌における詳細な機能については今後さらなる研究が必要であるが、癌抑制遺伝子以外の機能を有する可能性が考えられた。本研究結果は国際英文誌に投稿中である。Dkk-3遺伝子についての研究では、頭頸部扁平上皮癌90症例を用いて。Dkk-3タンパク発現と生存解析を行った。その結果、Dkk-3はLOHで高頻度に欠失している遺伝子であるにも関わらず、腫瘍細胞で84.4%(76/90例)と非常に高頻度に発現していた。さらに興味深いことに、Dkk-3を発現する患者は有意に無疾患生存率が短く(p=0.038)、特に遠隔転移を生じるまでの期間(metastasis free survival)が有意に低い(p=0.013)ことが示された。この結果からは、Dkk-3遺伝子は頭頸部扁平上皮癌では癌抑制遺伝子として機能するのではなく、むしろ転移を促進しているかのような結果であった。この現象については考察を加え、国際英文雑誌Oncology Lettersに掲載された。本研究で得られた成果は、頭頸部扁平上皮癌における抑制遺伝子の理解を深めるものである。