著者
松岡 數充 MERTENS Kenneth MERTENS Kenneth N
出版者
長崎大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2010

温度と塩分の異なる条件でProtoceratium reticulatumシストの発芽を試みたが成功せず,この種は温度と塩分の異なる条件に順応不可能であったと考えられた.このために,発芽実験用標本は形態的に類似した隠蔽種(cryptospecies)ではないかとの仮説の基に,天然シストを詳細に観察し,かつP.reticulatumのプランクトン細胞とシストのrDNA塩基配列を調査した.その結果,プランクトン細胞とシストの対応関係を得た.この実験結果は従前のP.reticulatumプランクトン細胞とシスト対応関係を支持していた.すなわちOperculodiniun centrocarpum sesu WallとされてきたシストはP.reticulatumであった.カナダ(東部: バフィン湾,西部: バンクーバー島)(日本;北海道,九州),デンマーク;カテガット)など異なる地点から採取したプランクトン単細胞と単一のシストのSSU,ITSおよびLSU塩基配列を明らかにした.その結果,ITS領域では配列に顕著な違いがある事が判明した.これが隠蔽種であるのか否かが今後の検討課題となった.北太平洋表層堆積物中のP.reticulatumシストの刺の長さの変化を詳細に計測した.平均刺の長さは毎年の海水密度と逆相関を示した:σt annual=1000+(-0.8476 x average process length+29.094)(R^2=0.84). Effingham Inlet in British Columbiaでのセディメント・トラップ試料では海水密度変化と平均プロセス長さの変化は北太平洋と同じ関係を示した.バルト海-スカゲラク海峡地域では平均の刺の長さ変化は海水密度と以下の関係式で示された.σt annual=1000+(3.5184 x average process length-6.686)(R^2=0.87). それぞれの関係式は一致しなかった.それは海水密度や栄養塩環境に地域特性があり,それに適応した隠蔽種が存在するか,あるいは他の未知の環境要因が寄与している可能性があるのかが今後の検討課題として残された.