著者
嶋本 利彦 MITCHELL Thomas Matthew MITCELL Thomas Matthew
出版者
広島大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2007

本研究の目的は,断層帯の内部構造,力学的性質,浸透率のような水理学的性質に関する構造などを調べて,地震の発生過程および地下深部における流体移動の定量的な解析に必要な断層モデルを提示することである.南米チリのアタカマ断層では,断層帯の内部構造と断層帯に接する母岩中のダメージ分布をより詳細に解析して論文で報告した(Mitchell & Faulkner,2009)。この研究では,顕微鏡スケールの微小クラックから地質断層に至る5桁におよぶ規模で,ダメージ分布が定量的に解析された.その結果,ダメージの程度を示すクラック密度は断層コアからの距離のべき乗に比例して減少することが明らかになった.断層帯のダメージ分布がこのように詳細に調べられたのは初めてである.今後クラック密度と浸透率,弾性波速度などの関係を決めることによって,断層帯全体の浸透率・速度構造モデルを決める道が開けた.有馬-高槻構造線と米国カリフォルニアのサンアンドレアス断層では,衝撃粉砕岩の野外調査と変形組織の解析をおこなって,結果を国際会議で報告した(論文は現在執筆中).衝撃粉砕岩(pulverized rock)とは,著しく粉砕しているものの,母岩の組織(花崗岩の等粒状組織など)を残していて,通常の断層のような著しい変形をうけていない岩石のことである.最近命名されて何故そのような岩石が断層沿いに形成されるかが議論されている.本研究では,両断層とも,断層コアの両側で断層帯の幅が著しく違うこと,破砕物の粒径分布で共通性が認められることなどを見いだした.その他,蛇紋岩断層ガウジ',無水石膏とドロマイトからなる断層ガウジの高速摩擦実験を共同でおこない,断層は高速時に大きな強度低下を起こすこと,摩擦熱で層状鉱物からなる断層ガウジは脱水・脱ガス分解をして天然の組織とよく似た剪断組織が形成されることを見いだした(学会で発表).