著者
Mackworth Cecily 原山 重信
出版者
慶應義塾大学日吉紀要刊行委員会
雑誌
慶応義塾大学日吉紀要 フランス語フランス文学 (ISSN:09117199)
巻号頁・発行日
no.42, pp.127-135, 2006

本論はCecily Mackworth, English Interludes, London and Boston, Routledge& Kegan Paul, 1974の第2章The Young Mallarmé のうち、The FrenchQuarter という表題の小見出しのついた箇所の全訳である。私としては、この論文の翻訳を、小見出しと紙幅の許す範囲の長さとに配慮しながら連載していきたいと考えている。 何故この文献を紹介しようという考えに至ったのか? それはこの文献が菅野昭正著『マラルメ』(中央公論社、1985年)には部分的に紹介されているものの、多くのマラルメ研究者が引用する論文ではないし、最近上梓されたジャン = リュック・ステンメッツ著『マラルメ伝』(柏倉康夫・永倉千夏子・宮嵜克裕訳、筑摩書房、2004年)にも触れられていない一方、マラルメにとって要の問題の一つである、詩人と英国との関係を考える上で有効な詳細情報を提供してくれるものであり、しかも英語で書かれていることもあって、多くの日本人マラルメ研究者に知られていないという事情による。したがって、読者として想定しているのは、日本人のマラルメないしその周辺に関心のある方々である。 そもそも研究者への利便を考えた時、フランス語以外の文献の翻訳紹介は、研究のレベルアップに貢献する意味が大きいように思われる。中世文学や言語学関係の研究者以外にはほとんど顧みられることがないドイツ語文献などはその最たるものであるが、英語文献の翻訳もそれなりに意味があるだろう。 この論文は、イギリスの母国人でないと困難である地理的、文化的側面を明らかにしてくれるという意味で注目に値する。ここでは若きマラルメが後に夫人となる女性と駆け落ちして滞在したロンドンの地域の詳細が明らかにされる。このこと自体はマラルメ研究に根本的修正を迫るものではないが、マラルメとイギリスの関係の根深さを証してくれるものであり、これはやがて職業人としては英語教師でもあった詩人がものしたエドガー・アラン・ポーの翻訳をはじめ、『古代の神々』、英語の教科書の類、さらに英国人たちとの交友関係を考える際、有益な情報ともなってくれるだろう。