著者
稲本 守 Mamoru Inamoto
出版者
東京海洋大学
雑誌
東京海洋大学研究報告 (ISSN:21890951)
巻号頁・発行日
vol.5, pp.45-54, 2009-03-27

国連海洋法条約101条は海賊行為を、私有の船舶の乗組員が、私的目的のために行う略奪行為と定義している。しかし歴史上の多くの海賊が、実際には国家によって認可され、植民地の防衛や戦時における海商破壊等の公的目的を果たしていた「私掠船」であったことを考えるなら、「私有の船舶」及び「私的目的」の意味を明確にすることは難しい。そこで本論はまず私掠行為の発生と歴史的展開を考察し、国家が私掠船を奨励、もしくは黙認した歴史的背景と動機の解明につとめることにより、私掠行為の一貫した特長として、一定の国家戦略の存在を指摘した。更に本論は、19 世紀半ばに私掠行為が廃止された経緯を、主に国家による軍事力独占の過程から説明した。言い換えれば国家は、海上における軍事力を独占し、海賊を「万民の敵」とすることによって初めて海上における主権を確立したのである。
著者
稲本 守 Mamoru Inamoto
出版者
東京海洋大学
雑誌
東京海洋大学研究報告 = Journal of the Tokyo University of Marine Science and Technology (ISSN:21890951)
巻号頁・発行日
vol.13, pp.65-75, 2017-02-28

On July 12, 2016, the Arbitral Tribunal issued an arbitration award on the South China Sea Dispute between China and the Philippines. It concluded that China’s historic rights to resources in the maritime areas within the so-called “Nine-dash Line” are incompatible with the International Convention of the Law of the Sea (UNCLOS) and have no legal effect. At the same time, the Tribunal acknowledged that all high-tide features in the Spratly Islands are not entitled to an exclusive economic zone and continental shelf and that no overlapping entitlements exist in the maritime zones claimed by the Philippines. After giving the background and general outline of the Award, this paper examines the reasoning of the judgment, in particular the strict standards set by the Court when applying the article 121( 3) of UNCLOS about the status of maritime features. 2016年7月12日に、仲裁裁判所は中国とフィリピンとの間における南シナ海紛争についての仲裁裁定を下した。その中で法廷は、中国のいわゆる九断線内の海域における資源に対する歴史的権利が国連海洋法条約とは両立せず、中国が主張する権利には法的根拠がないと結論付けた。更に法廷は、スプラトリー諸島における高潮線上の島嶼のすべてが排他的経済水域及び大陸棚に対する権限を有せず、フィリピンが主張する海域には権原の重複が存在しないことを認めた。 本稿は本裁定の背景と概要について紹介すると共に、今回の裁定における論拠、とりわけ島嶼の地位に関する国連海洋法条約121条3項を適用する際に設定された厳格な基準について考察した。