- 著者
-
稲本 守
Mamoru Inamoto
- 出版者
- 東京海洋大学
- 雑誌
- 東京海洋大学研究報告 (ISSN:21890951)
- 巻号頁・発行日
- vol.5, pp.45-54, 2009-03-27
国連海洋法条約101条は海賊行為を、私有の船舶の乗組員が、私的目的のために行う略奪行為と定義している。しかし歴史上の多くの海賊が、実際には国家によって認可され、植民地の防衛や戦時における海商破壊等の公的目的を果たしていた「私掠船」であったことを考えるなら、「私有の船舶」及び「私的目的」の意味を明確にすることは難しい。そこで本論はまず私掠行為の発生と歴史的展開を考察し、国家が私掠船を奨励、もしくは黙認した歴史的背景と動機の解明につとめることにより、私掠行為の一貫した特長として、一定の国家戦略の存在を指摘した。更に本論は、19 世紀半ばに私掠行為が廃止された経緯を、主に国家による軍事力独占の過程から説明した。言い換えれば国家は、海上における軍事力を独占し、海賊を「万民の敵」とすることによって初めて海上における主権を確立したのである。