著者
Marianna Cespa
出版者
北海道大学大学院文学研究科
雑誌
研究論集 (ISSN:13470132)
巻号頁・発行日
vol.12, pp.169-187, 2012-12-26

本稿は現代日本語とイタリア語の時制の相違点や共通点に関して論じるも のである。言うまでもなく,言語が異なると文法も異なるため,用語法が厳 密な部分とそうではない部分があるように見えるが,どの言語もあらゆる言 語に翻訳することが可能であり,それらの言語間の異なる時制形式を説明す ることも可能であるということが本稿の前提である。本稿ではかなり相違が あると思われているイタリア語と日本語の時制形式とその関係について述べ ながら,2つの言語をどのような視点からどう一般化して捉え,どのような 諸手段で表現しているか,またこのような言語的時間の本質がどのように有 機的に発話行為に繫がっているかに関しても考えていく。 本稿で取りあげるのはイタリア語と日本語の現在時制と過去時制の本質と その用法であり,特に複文における用法である。日本語に時制はないという 立場と日本語の時制は曖昧であるという立場をとる学者がいるが,本稿では 日本語にも時制があると考える。従来の様々な外国語教育研究の結果による と日本語を母国語とする学生にとってはイタリア語の時制が複雑であるのに 対し,イタリア語を母国語とする学生にとっては日本語の時制が曖昧のよう である。おそらく,イタリア語には日本語にない時制の一致のルールがある からだと考えられる。このルールによるとイタリア語は主節の動詞が過去形 のとき,従属節の動詞はその影響を受ける。一方,日本語ではこのような時 制の一致の制限はないが,動詞が動作動詞か状態動詞かによって,その文の 時制(またはアスペクト)を決める上での力関係が違ってくる。 次に,イタリア語の過去時制に属する近過去と遠過去の相関関係について 述べる。その際には,例文を挙げながら,それらの時制の「代用」の一般的 な傾向が適切かどうかに関しても考えていく。