著者
萩原 康子 西田 昌司 Yasuko HAGIHARA Masashi NISHIDA
雑誌
神戸女学院大学論集 = KOBE COLLEGE STUDIES
巻号頁・発行日
vol.60, no.1, pp.33-50, 2013-06-20

女性ホルモンのエストロゲンの増減が引き起こす皮膚の変化として、表皮の再生能力(ターンオーバー)の変化が挙げられる。従来、エストロゲンが増加すると皮膚細胞の増殖が促進し、ターンオーバーが早まると考えられてきた。しかし、皮膚のターンオーバーは、基底層での細胞増殖、有棘層でのケラチン(K10)合成、顆粒層での細胞死(アポトーシスとネクローシス)、角質層での蛋白分解酵素(KLK8)による切断というように、表皮を作る各細胞層に特徴的な分子機構が存在しているにもかかわらず、細胞増殖以外に及ぼすエストロゲンの効果については解明されていなかった。そこで、エストロゲンが表皮ターンオーバーにどのように関与するかを調べるため、胎児ラット表皮由来細胞株で作成した培養モデルにおいて、代表的なエストロゲンである17βエストラジオールが、ターンオーバーの各過程にどのような影響を及ぼすかを検討した。17βエストラジオールは、培養表皮細胞の細胞増殖とK10合成、細胞死、KLK8活性の何れをも促進した。またエストロゲン受容体阻害剤ICI182780を添加すると、17βエストラジオールによって促進した細胞増殖とアポトーシス、KLK8活性が抑制されたことより、これらの過程は細胞内のエストロゲン受容体を介して起こって居ることが明らかとなった。さらには植物エストロゲンであるイソフラボン類のダイゼインを用いて同様の検討を行ったところ、細胞増殖とアポトーシス、KLK8活性が促進されることも確認できた。これらの知見を総合すると、女性ホルモンが表皮細胞の生成、成熟、剥離のいずれにおいても重要な役割を果たし、表皮ターンオーバーの促進に関与していることが明らかになった。また、ダイゼインがエストロゲンと類似の効果を示したことにより、イソフラボンを含む食事を摂取することによって、閉経時における女性ホルモンの減少を補充することが出来る可能性が示唆された。
著者
山本 智美 西田 昌司 Tomomi YAMAMOTO Masashi NISHIDA
雑誌
神戸女学院大学論集 = KOBE COLLEGE STUDIES
巻号頁・発行日
vol.64, no.1, pp.141-152, 2017-06-20

大脳皮質でのアミロイドβ沈着は、アルツハイマー型認知症(AD)の病態と密接に関連している。神経細胞は、異常蛋白質を修復する小胞体にアミロイドβ沈着物を取り込む。異常蛋白質の蓄積によって小胞体ストレスが増加すると、細胞はシャペロン蛋白の誘導などの小胞体ストレス応答(UPR)を惹起して小胞体ストレスに対処する。しかしUPRの惹起が十分でない場合は、アポトーシスによる細胞死に至る。今回我々は、アミロイドβ負荷による神経細胞のUPRがERストレスの対処には不十分であり、AD発症率を低下させる女性ホルモンがUPRを増強して細胞死を抑制するかを、培養細胞モデルを用いて検討した。ラット神経系由来のPC-12細胞に、小胞体ストレス誘発剤であるツニカマイシン、アミロイドβ単量体、または凝集体を負荷すると、小胞体ストレスが増加するとともに、UPRで誘導されるジャペロン蛋白GRP78も増加させた。女性ホルモンの17β-エストラジオールによる前処理は、ツニカマイシン、アミロイドβによるGRP78発現を増強するとともにすると、神経細胞における小胞体ストレスを減少した。また、アポトーシスが誘導されたことにより、ツニカマイシンによるUPRは小胞体ストレスの凌駕には不充分であることがわかる。17β-エストラジオールによる前処理はツニカマイシンによるアポトーシスも減少させた。以上より、大脳皮質におけるアミロイドβ沈着は神経細胞の小胞体ストレスを惹起するが、誘導されるUPRが不十分な場合にはアポトーシスによる細胞死が生じた。女性ホルモンのエストロゲンは、UPRを増強することによってアミロイドβ負荷による小胞体ストレスを軽減し、アポトーシスを抑制する可能性が示された。女性ホルモンは、アミロイドβによる神経細胞の小胞体ストレスを修飾することによって、ADの発症率を低下させていることが示唆された。