著者
山本 智美 西田 昌司 Tomomi YAMAMOTO Masashi NISHIDA
雑誌
神戸女学院大学論集 = KOBE COLLEGE STUDIES
巻号頁・発行日
vol.64, no.1, pp.141-152, 2017-06-20

大脳皮質でのアミロイドβ沈着は、アルツハイマー型認知症(AD)の病態と密接に関連している。神経細胞は、異常蛋白質を修復する小胞体にアミロイドβ沈着物を取り込む。異常蛋白質の蓄積によって小胞体ストレスが増加すると、細胞はシャペロン蛋白の誘導などの小胞体ストレス応答(UPR)を惹起して小胞体ストレスに対処する。しかしUPRの惹起が十分でない場合は、アポトーシスによる細胞死に至る。今回我々は、アミロイドβ負荷による神経細胞のUPRがERストレスの対処には不十分であり、AD発症率を低下させる女性ホルモンがUPRを増強して細胞死を抑制するかを、培養細胞モデルを用いて検討した。ラット神経系由来のPC-12細胞に、小胞体ストレス誘発剤であるツニカマイシン、アミロイドβ単量体、または凝集体を負荷すると、小胞体ストレスが増加するとともに、UPRで誘導されるジャペロン蛋白GRP78も増加させた。女性ホルモンの17β-エストラジオールによる前処理は、ツニカマイシン、アミロイドβによるGRP78発現を増強するとともにすると、神経細胞における小胞体ストレスを減少した。また、アポトーシスが誘導されたことにより、ツニカマイシンによるUPRは小胞体ストレスの凌駕には不充分であることがわかる。17β-エストラジオールによる前処理はツニカマイシンによるアポトーシスも減少させた。以上より、大脳皮質におけるアミロイドβ沈着は神経細胞の小胞体ストレスを惹起するが、誘導されるUPRが不十分な場合にはアポトーシスによる細胞死が生じた。女性ホルモンのエストロゲンは、UPRを増強することによってアミロイドβ負荷による小胞体ストレスを軽減し、アポトーシスを抑制する可能性が示された。女性ホルモンは、アミロイドβによる神経細胞の小胞体ストレスを修飾することによって、ADの発症率を低下させていることが示唆された。