著者
森野 雄介 モリノ ユウスケ Morino Yusuke
出版者
大阪大学大学院人間科学研究科 社会学・人間学・人類学研究室
雑誌
年報人間科学 (ISSN:02865149)
巻号頁・発行日
vol.37, pp.105-122, 2016-03-31

本稿は、西田幾多郎の後期哲学における身体と自然の関係性を解明することを目的とする。後期西田の論文「人間的存在」において、身体と自然の関係性が「犬」への言及と共にクローズアップされる。その一文を手引きとして、本稿は後期の自然・身体概念と西田の前期・中期哲学とのあいだにどのような関係性が見受けられるかを考察していく。はじめに、中期西田の主要概念である「永遠の今の自己限定」が後期では「自然」として捉え直されていることに着目する。さらに、そこでは、中期の「現在が過去未来を含む」という規定が「現在に過去未来が同時存在する」という規定へと変更されていることを確認できる。本稿は、この変更の理由に、後期において主観と客観の相互対立が議論の骨子となっていることを指摘する。次に、主観と客観それぞれに対応するかたちで、西田が二種類の身体性と自然を提示していることを確認していく。まず、客観に対応するものが、「歴史的身体」と述べられる概念であり、これは静的な記号的「自然」として世界を観察可能にすることを確認する。主観に対応する身体性、自然として、西田は「生物的身体」と衝動的な「自然」を提示していることを確認する。最後に、これまでの議論を踏まえて、論文「人間的存在」内の「犬」と自然に関する言及を再吟味する。