- 著者
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Murakami Takio
Wang Bin
Lyons Steven W.
- 出版者
- 公益社団法人 日本気象学会
- 雑誌
- 気象集誌. 第2輯 (ISSN:00261165)
- 巻号頁・発行日
- vol.70, no.1, pp.191-210, 1992
- 被引用文献数
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風、地上気圧、海面水温(SST)、外向長波放射(OLR)データを用いて、90°Eと110°Wに沿った7月平均の地域的なハドレー循環の構造を調べた。本論文の目的は、2種類のモンスーン-大陸と海洋との対照で生じるモンスーン(インドモンスーン)とSST傾度で生ずるモンスーン(北東太平洋夏季モンスーン)-を比較することである。<br>7月、90°Eに沿って大規模なハドレー循環が存在する。さらにこれに重なって、両半球側にはっきりと分かれた地域的なハドレー循環が存在している。北半球のハドレー循環は、赤道からモンスーントラフに吹き込む下層の南風、上昇域に対応するベンガル湾北端での大量の雨、200mbの北風、を伴っている。この北のセルは、赤道ベンガル湾上で弱い南の発散南風となっている。高い山岳を伴った大陸の存在が、ベンガル湾でのモンスーンの発達には重要であるが、SSTの影響は非常に小さい。南半球側のハドレーセルは、中緯度高気圧からの下層の南風流入によって維持されており、この南風は20°Sから10°Sにかけての強いSST傾度によって暖められ、気団変質を起こしている。変質した気塊は赤道近くのトラフに収束し、2°S-8°Sで冬の雨をもたらす。この領域では南半球ハドレーセルの上昇域が存在する。南北両半球側のハドレーセルは、夏冬半球の熱的差異によって生じた赤道を横切る下層の南風によって相互に関係し合っている。<br>110°Wにおいては、大陸の影響は小さいと思われる。東太平洋域は、赤道上を東西に伸びる冷たいSSTで特徴付けられる。この非常に強いSSTの南北傾度によって、顕著な北向きの気圧傾き度が生じ、赤道北側で南風を加速する。赤道から10°Nにかけて急激にSSTが上昇するために、この南風に多量のエネルギーが供給される。対流活動は12°N付近で最も強く、ここはSST最大(28.3°)である熱赤道より、2°~3°南に対応する。熱帯南太平洋では、低水温(25℃以下)のために、対流活動は不活発である。年間を通じて、熱帯収束帯(ITCZ)は熱帯北太平洋に停滞している。夏季モンスーンは、7月にITCZ(ハドレー循環の上昇域)が最も北の14°Nに位置する時に起きる。東部赤道太平洋の地上風の年変化は、東西風(下層ウォーカー循環)よりも、南北風(下層ハドレー循環)の方が一段と大きい。このことによって東部北太平洋の夏季モンスーンの発達が促進される。