著者
西村 則昭 Nishimura Noriaki
出版者
仁愛大学
雑誌
仁愛大学研究紀要. 人間学部篇 (ISSN:21853355)
巻号頁・発行日
no.18, pp.21-36, 2019

白隠の布袋画の中にメビウスの帯の描かれたものが二種類ある.本論文では,それらを白隠の禅の境地を表現するものと捉え,ラカンの考え方を用いて分析検討した.ラカンは精神分析の経験を提示するためにトポロジーを用いたが,それは精神分析が禅と同様,現実界を志向する営為だからである.「無限」という観念が象徴界の限界を示すものであるならば,メビウスの帯が作り出す「無限の深みの更なる深み」は現実界を示す.問題の画の一つには,メビウスの帯を作り出す布袋の姿が描かれており,そこには現実界の中で言語活動の根源相を自覚的に生きる白隠の境地が表現されていると考えられる.もう一つには,メビウスの帯の面をくぼませ,無限大以上の容量の袋にして,その縁を口にくわえている布袋の姿が描かれており,そこには見性という仕方で『法華経』の深理に契当した白隠の,現実界から汲めども尽きない利他の活力を得ている境地が表現されていると考えられる.