著者
山中 千恵
出版者
仁愛大学
雑誌
仁愛大学研究紀要. 人間学部篇 (ISSN:21853355)
巻号頁・発行日
vol.10, pp.69-77, 2011-12-30

近年,マンガやアニメなどのポピュラー文化を博物館,美術館,図書館などの文化施設におさめ,その集客力をもって地域活性化を図ろうとする動きがすくなくない.だが,これらの施設は,なにをもって「成功」したとみなせるのだろうか.今後こうした施設の設立を検討している人々は,何を目指し,先行の施設を参照すべきなのか.本稿では,こうした問題意識に基づき,韓国において設立されたマンガ関連施設「韓国漫画映像振興院」(富川市)を事例としてとりあげ検討する.当該施設がいかなる政策的背景のもと設立されたのかを概観し,それがマンガの雑種性や多様性を引き出すというよりは,「近代的なミュージアム」の思想にのっとって運営されていることを指摘する.
著者
四戸 友也
出版者
仁愛大学
雑誌
仁愛大学研究紀要. 人間学部篇 (ISSN:21853355)
巻号頁・発行日
vol.11, pp.23-31, 2013-03-31

わが国に本格的なメディアが導入されたのは明治になってからだ.活版印刷機が導入され,デイリーで新聞が出されるようになるまで時間はかからなかった.その後,雑誌,書籍,映画,ラジオと日本人の好奇心と西欧文化取り入れる巧みさで,メディア大国になっていく.今日,インターネットの普及に伴い,メディアの多様化が言われて久しい.政治・経済・社会の隅々の活動にいたるまで「ネット」抜きには語れない.2010年から2011年にかけてアラブ世界で起きた,反政府運動はネットと政治との関連性を認識させた.体制が変わり,アラブの春とかジャスミン革命とも呼ばれた.ネットメディア,中でもフェースブック,ツイッターなどソーシャルメディアといわれるものが人々を動かす原動力になった.権力者は掲載禁止や放送禁止などの強制力を使いメディアをコントロールしようとした.メディアの発信元が限られている場合は可能だったが,インターネットの出現はコントロールを困難にしている.リビアに存在した独裁政権もこの流れの中で崩壊した.一方で光もあれば影もある.2012年10月に発覚した他人のパソコンを遠隔操作して脅迫メールを送った事件は,新たな犯罪を起こしうることは私たちにインターネットの怖さを印象付けた.メディアの歴史を振り返りながら「ネット」時代のメディアとマスコミュニケーションの今後,新たな情報社会でのメディアリテラシーにどう取り組むかを考えていく.
著者
山中 千恵 伊藤 遊 百瀬 英樹 Yamanaka Chie Ito Yu Momose Hideki
出版者
仁愛大学
雑誌
仁愛大学研究紀要. 人間学部篇 (ISSN:21853355)
巻号頁・発行日
no.14, pp.39-50, 2015

本論文の目的は,台湾南投県にあるテーマパーク型宿泊施設「妖怪村主題飯店-渓頭明山森林会館」が作る南投渓頭妖怪村の事例をとりあげ,ポピュラー文化を活用した観光資源創造の可能性について検討することにある.非場所的な性質を持つポピュラー文化が,その特質ゆえにローカル化を容易にし,それによって,あらたな場所性を創造していくことを可能にする過程を確認する. 調査を通じて明らかになったのは,「妖怪」をめぐるポピュラー文化の再場所化を支えるのが,そこに書き込まれた「物語」を消費することではなく,むしろ,そうしたテキスト間の横断をうながす「キャラクターの自律性」という,日本に顕著にみられる能動的なポピュラー文化消費の形式と,それを支えるシステムだということである.こうしたシステムの存在に注目することで,ポピュラー文化のグローバルな消費をめぐる議論を,ファンの受容行動にとどまらない文脈へと接続することが可能になると思われる.
著者
西村 則昭
出版者
仁愛大学
雑誌
仁愛大学研究紀要. 人間学部篇 (ISSN:21853355)
巻号頁・発行日
vol.8, pp.33-44, 2009-12-30

本稿(2)では,統合失調症の臨床事例(西村,1998)の再解釈が,特にクライエントの報告した三つの夢をめぐって試みられた.クライエントは面接過程の中で,アニマ像に導かれ,現実界に接近し,父の名の体得が行なわれるべき場へと再び到った.しかし主体は父の名の課す去勢を建設的な体験にすることができず,激しい怒りの反応を呈するだけで,父の名の受け取りを自ら拒否し,象徴界の外部,現実界の真っ只中に留まったまま,象徴界との凄まじい緊張関係に立たされる道(精神病者への道)を選んだ.心理療法はそのことを確認するために行なわれたようにも思われた.総合的考察では,『ブランビラ王女』における主体(ジーリオ)との比較によって,精神病的主体のあり方が浮き彫りにされ,そして物自体に相応するイメージを紡ぎ出し,主体を現実界へと接近させる存在として,ラカン的に捉え直されたアニマが,ラカン理論における対象a に相当することが論じられた.
著者
吉水 ちひろ
出版者
仁愛大学
雑誌
仁愛大学研究紀要. 人間学部篇 (ISSN:21853355)
巻号頁・発行日
no.16, pp.33-42, 2017

本稿の目的は,インタラクティブ・フォーカシングを用いた共感的傾聴トレーニングのプログラムを,大学院授業用に構成し実践した試みを紹介し,心理臨床初学者にとっての有用性を検討するものである.プログラムは『ハンドブック インタラクティブ・フォーカシング』を土台に,6つのステップと8つの実習で構成されている.受講者の感想からは,新鮮で意味ある実習体験として受け止められ,体験の深まりや被傾聴感を実感し,実践との繋がりを意識しながら自己研鑽の展望を得る様相が示された.心理療法における共感と傾聴という臨床実践の中核的なテーマについて,主体的な気づきによって課題が明確になり,実践への橋渡しとなる有効なトレーニング法であることが示唆された.
著者
西村 則昭
出版者
仁愛大学
雑誌
仁愛大学研究紀要. 人間学部篇 (ISSN:21853355)
巻号頁・発行日
vol.8, pp.23-32, 2009-12-30

本稿(1)(2)では,かつてユング心理学の観点から解釈が行なわれた,ドイツ・ロマン派の作家ホフマンの『ブランビラ王女』(西村,1997)と統合失調症の臨床事例(西村,1998)が,今回はラカンの精神分析の観点から再解釈が試みられた.『ブランビラ王女』の主人公ジーリオも事例も,若い男性で,誇大妄想をもっていたが,その背後にはユングのいうアニマ(心の深層の女性的存在)の問題と絡んでラカンのいう「父の名」の問題が横たわっていたと考えられた.幼少期,父の名が体得されることによって,主体は象徴界(言語活動の次元)に組み込まれ,欲動を制御しつつ,このわれわれの共同の現実世界を生きていくことが可能となる.本稿(1)では,『ブランビラ王女』の再解釈までを載せる.主体(ジーリオ)は去勢を是認して父の名の体得をやり直すという課題に直面した.その際,父の名は,主体の側と,<他者>における言語の側に分裂した.主体は,主体の側にある父の名の片割れの援助を受けつつ,アニマ像に導かれ現実界へと接近し,鏡像段階以前の,現実界の中の主体,物自体としての主体,根源的主体に立ち返った.そして根源的主体は,それに相応しい大いなる<私>のイメージに包まれ匿われ守られ,いわば誇大妄想の状態で,父の名の体得のやり直しを果たした,と考えられた.
著者
坂井 祐円 Sakai Yuen
出版者
仁愛大学
雑誌
仁愛大学研究紀要. 人間学部篇 (ISSN:21853355)
巻号頁・発行日
no.19, pp.1-14, 2021-02-20

20 世紀後半の死生学研究の展開の中で,生まれ変わり現象についての科学的アプローチによる研究が進んだ.この研究には大きく二つの方向がある.一つは世界各地の前世記憶をもつ子どもの事例についての調査研究であり,もう一つは退行催眠を用いたトラウマ治療の中で,生まれる以前の過去生の記憶を語り出すという事例についての心理研究である.とりわけ後者の研究では,被験者が一つの人生から別の人生に移行する間にあるとする中間生(あの世)についての記憶や,魂の成長のために生まれ変わるという目的を語ったことを報告している.本稿では,まず前半でこうした生まれ変わり現象の科学的な研究の成果を紹介する.そして,これを踏まえた後半では,生まれ変わり現象についての授業を受けた大学生のレポートを取り上げ,そこに見られる意見や感想をもとに,生まれ変わりをどのように考えたらよいのかについて,死生観や伝統宗教との関連から考察する.
著者
赤澤 淳子 井ノ崎 敦子 上野 淳子 松並 知子 青野 篤子
出版者
仁愛大学
雑誌
仁愛大学研究紀要. 人間学部篇 (ISSN:21853355)
巻号頁・発行日
vol.10, pp.11-23, 2011-12-30

本研究では,デートDVを当事者間の親密性や関係性などの関係的変数から検討することを目的とした.具体的には,衡平性の認知による,恋愛スタイルやデートDV被害・加害経験の差異,また,衡平性に関する各変数および恋愛スタイルが,デートDVの被害加害経験に及ぼす影響について分析した.調査への参加者は,大学および短期大学の学生329名であった.分析の結果,過小利得者は,衡平利得者や過大利得者より関係満足度が低かった.また,過小利得者では,パートナーとの関係性に没頭する狂気的な愛のスタイルや,パートナーとの間に距離を保とうとする遊び半分のゲーム感覚的な愛のスタイルという対称的な感情が高いという特徴が示され,アンビバレントな感情をパートナーに対して抱きやすいことが示唆された.さらに,自己投入がManiaを経由して,DV被害加害経験を生起させることが明らかとなった.つまり,関係のアンバランスさが,嫉妬,不安,抑うつのような強い感情を高め,デートDVの加害・被害を引き起こしている可能性が示唆された.
著者
西村 則昭 Nishimura Noriaki
出版者
仁愛大学
雑誌
仁愛大学研究紀要. 人間学部篇 (ISSN:21853355)
巻号頁・発行日
no.18, pp.21-36, 2019

白隠の布袋画の中にメビウスの帯の描かれたものが二種類ある.本論文では,それらを白隠の禅の境地を表現するものと捉え,ラカンの考え方を用いて分析検討した.ラカンは精神分析の経験を提示するためにトポロジーを用いたが,それは精神分析が禅と同様,現実界を志向する営為だからである.「無限」という観念が象徴界の限界を示すものであるならば,メビウスの帯が作り出す「無限の深みの更なる深み」は現実界を示す.問題の画の一つには,メビウスの帯を作り出す布袋の姿が描かれており,そこには現実界の中で言語活動の根源相を自覚的に生きる白隠の境地が表現されていると考えられる.もう一つには,メビウスの帯の面をくぼませ,無限大以上の容量の袋にして,その縁を口にくわえている布袋の姿が描かれており,そこには見性という仕方で『法華経』の深理に契当した白隠の,現実界から汲めども尽きない利他の活力を得ている境地が表現されていると考えられる.
著者
赤澤 淳子 水上 喜美子 小林 大祐
出版者
仁愛大学
雑誌
仁愛大学研究紀要. 人間学部篇 (ISSN:21853355)
巻号頁・発行日
vol.8, pp.1-12, 2009-12-30

本研究では,家族成員間の相互作用として家族との直接的かつ質的コミュニケーションを取り上げ,その実態について家族システム論に依拠して検討することを第一の目的とした.また,第二の目的として,個人が認知する家族とのコミュニケーションと,個人の主観的幸福感との関係について検討した.その分析に際しては,家族形態及び地域という視点を導入した.調査対象者は,子世代については,15歳から30歳までの666名であった.母親世代は,35歳から60歳までの645名を,また,祖母世代は,55歳から85歳までの306名を対象とした.分析の結果,子世代および母親世代が認知する家族のコミュニケーション態度については,特に父方祖母や母方祖母のコミュニケーションについて家族形態による差が顕著に見られることが明らかとなった.また,孫世代と祖母世代とのコミュニケーションに関しては地域差が見られ,家族成員間のコミュニケーションにおいて,家族形態や地域差が影響している可能性が示唆された.さらに,個人が認知する家族とのコミュニケーションと,個人の主観的幸福感との関係について検討した結果,親子関係のみならず,祖母-孫,姑-嫁という世代間の,相互作用のあり方が,個人の主観的幸福感に影響している可能性が示唆された.すなわち,日常のコミュニケーションは相互の関係性に影響するだけでなく,個々の精神的な健康度にも影響するものと推測された.
著者
森 俊之 谷出 千代子 乙部 貴幸 竹内 惠子 高谷 理恵子 中井 昭夫
出版者
仁愛大学
雑誌
仁愛大学研究紀要. 人間学部篇 (ISSN:21853355)
巻号頁・発行日
vol.10, pp.61-67, 2011-12-30

ブックスタートに取り組んでいる自治体と取り組んでいない自治体を比較することで,乳幼児期からの絵本の読み聞かせがその後の子どもの読書習慣に及ぼす影響を検討した.7年間以上ブックスタートに取り組んでいる自治体と未だ取り組んでいない自治体を1か所ずつ選び,当該自治体の公共図書館の近隣に立地する小学校7校で,1年生の子どもをもつ保護者を対象に子どもの生活習慣や読書環境に関するアンケート調査を行った.乳児期におけるブックスタートの体験が,小学1 年生の時点での読書習慣を増やし,ゲーム習慣を減らすという結果が見出された.また,乳児期に親子でブックスタートを体験することで,保護者の図書館利用頻度が高まり,保護者による子どもへの読み聞かせの頻度が高まるという結果も示された.ブックスタートは,保護者の読み聞かせ行動などを変化させ,それにより小学校入学後の子どもの読書習慣など生活習慣に影響を及ぼすと考えられる.