著者
鈴木 克彦 PEAKE J.M. PEAKE J.M
出版者
早稲田大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2004

我々は、運動負荷に伴う血中サイトカイン濃度の変動が、運動の強度や時間などの生体負担に依存することを明らかにしてきた。本研究では、究極の運動負荷と考えられる鉄人トライアスロン(3.8km水泳、180km自転車、42.2kmマラソン)のレース前・後、1日後に被験者9名から採血し、筋損傷・炎症との関連を調べた。筋損傷の指標としては、筋力、関節可動域、腫張、疼痛、血中ミオグロビン濃度、クレアチンキナーゼ活性を、炎症マーカーとしてはCRP、SAAを、ストレスタンパク質としてはHSP70を測定したが、すべて顕著な変動を示し、レース後および1日後に筋損傷が顕在化した。サイトカインは10種類の測定を行ったが、炎症性サイトカインである1L-1βとTNF-αは変動を認めず、一方、IL-6、IL-1ra、IL-10、IL-12p40、G-CSFが顕著に上昇した。しかし、筋損傷とは関連が認められず、血中サイトカインから筋損傷のメカニズムを説明することはできなかった。これらのサイトカインは、細胞性免疫を抑制する作用があり、炎症の全身性波及を抑制する適応機構として働く反面、感染に対する抵抗能力を低下させる可能性が考えられる。以上の研究成果は、国際運動免除学会にて発表し、現在、European Journal of Applied Physiologyにて審査中である。また、運動による筋損傷と炎症の機序に関して、先行研究の知見を文献的に整理したが、血中のサイトカインの関与は少なく、むしろ白血球の産出する活性酸素の関与の重要性が示唆され、その方向で今後の研究を進める必要性が考えられた。