著者
Rufus M. CLARKE 小林 繁
出版者
International Society of Histology and Cytology
雑誌
Archivum histologicum japonicum (ISSN:00040681)
巻号頁・発行日
vol.38, no.2, pp.133-150, 1975 (Released:2009-02-20)
参考文献数
11
被引用文献数
4 7

ラットの空腸を分離 切断し, その先端は縫合され, 後端は腹壁に開口する袋を手術的に作製した. 次いで この袋の先端近くより, 量と成分の知られている種々の試験液を注入し, 粘膜の細胞学的変化を光線顕微鏡と電子顕微鏡を使って経時的に研究した.ポリエチレングリコール4000 (PEG) の等張液 (16.8%) を注入したものでは, 腸絨毛の上端部の腸細胞はすみやかに損傷された. しかし杯細胞と基底果粒細胞には変化が認められなかった. 等張PEG注入後6-72時間後に採取された標本では, 腸絨毛の上端に杯細胞と基底果粒細胞よりなる帽子状の細胞塊が形成されていた. 1% PEGと5.1%ブドウ糖の混合液を注入したものでは, 注入液が直接注ぐ袋の先端部の粘膜には変化がみられないが, 袋の中間部と後部では, 等張PEGを注入したときと同様の著明な変化が認められた. 蒸溜水の注入も, 腸細胞を損傷したが, このさいの粘膜の変化はPEG注入によるものとは 明らかに異っていた. 等張ブドウ糖液の注入では 粘膜の形態はまったく正常であった. PEG注入による腸粘膜の損傷は, PEG注入を止めてのち, 等張ブドウ糖液を6時間注入することによって正常に回復した.以上の結果が, 腸絨毛を被う上皮細胞の絶えざる更新の問題との関連において考察された.