著者
浜 夏樹 村田 浩一 野田 亜矢子 川口 美保子 酒井 洋樹 柵木 利昭 SASSEVILLE Vito G. 柳井 徳磨
出版者
日本野生動物医学会
雑誌
日本野生動物医学会誌 (ISSN:13426133)
巻号頁・発行日
vol.3, no.1, pp.53-58, 1998
参考文献数
16
被引用文献数
2

動物園で飼育していた雌マヌルネコの1例が突然元気がなくなり, 食欲が廃絶した。血液および生化学検査では, 貧血, 著明な好中球の左方移動, 低リンパ血症, 高蛋白血症, 尿素窒素およびクレアチニンの上昇, 電気泳動像ではガンマーグロブリン分画の著明な増加が認められた。尿検査では, 蛋白尿と潜血が認められた。血清抗体検査では, ネコ伝染性腹膜炎(FIP)抗体の著明な上昇(25,600)がみられたが, ネコ白血病ウイルス(FLV)抗原およびネコ免疫不全ウイルス(FIV)抗体はそれぞれ陰性であった。剖検では, 左右腎臓は腫大し, 巣状多中心性, 一部は癒合しつつある白色結節が皮質に認められた。肝臓では, 実質内に小壊死巣が散見された。胸水および腹水の貯留は認められなかった。組織学的には, 血管炎を伴う壊死あるいは好中球の浸潤を伴う肉芽腫性反応が, 腎皮質, 肝臓, リンパ節および肺胸膜に種々の程度に認められた。直接蛍光抗体法によりFIPV抗原が肉芽腫病変内に浸潤する大食細胞に認められた。以上のことから, 本例は非滲出型ネコ伝染性腹膜炎と診断された。また, 動物園における野生ネコ科動物への同ウイルスの感染および発病の可能性が示された。