著者
村田 浩一
出版者
日本野生動物医学会
雑誌
日本野生動物医学会誌 (ISSN:13426133)
巻号頁・発行日
vol.24, no.2, pp.41-47, 2019-07-11 (Released:2019-09-15)
参考文献数
16

日本に初めて誕生した動物園は,フランス革命直後の1794年に開園したパリ国立自然史博物館内の植物園附属動物園(Ménagerie, le zoo du Jardin des Plantes)をモデルにしている。幕末にそこを訪れた田中芳男や福澤諭吉は,西欧文化や博物学の奥深さに驚いたことだろう。当時の動物園(メナジェリー)には,ラマルク,サンチレール,そしてキュヴィエなど,現在もなお名を馳せている学者たちが関与していた。動物園の歴史が,博物学や動物学や比較解剖学などの学術研究を基盤としている証左である。しかし,本邦の動物園は,その基盤の重要性を認識していた形跡が明治時代の文書である「博物館ノ儀」に認められるにも関わらず,上野公園に動物園が創設されて以降とくに戦後の発展過程において継承されることなく現在に至っている。国内動物園で学術研究が滞っているのは,研究環境が十分に整っていないことが原因であるのは確かだ。だが,それだけだろうか? 現今の停滞を打開するために日本の動物園関係者が必要とするのは,200年以上に及ぶ動物園における学術研究の歴史を背負い,時代に応じた新たな研究を興し,その成果を世界に向けて発信する覚悟ではないかと思う。動物園が歴史的に大切にしてきた“研究する心”を持って新たな未来を切り開くために闘い続けるべきであろう。

27 0 0 0 OA 動物園の科学

著者
村田 浩一
出版者
日本野生動物医学会
雑誌
日本野生動物医学会誌 (ISSN:13426133)
巻号頁・発行日
vol.20, no.2, pp.35-40, 2015-06-30 (Released:2018-05-04)
参考文献数
17

学会創立20年を経て動物園にアカデミックな基盤が構築されたかというと,残念ながら未だに不十分な状態にあると言わざるを得ない。この現状を打開するために『動物園学(Zoo Science)』を興す必要があると考えている。動物園学とは,動物園に関連する理系のみならず文系の学問分野を相互に連関させることで構築される総合的な学問体系である。この新たな学問領域をアカデミアに認知させ,本邦の文化として定着させることができれば,動物園が科学の場であることが当然のように受け入れられるであろう。日本の動物園を進化させるためにも,動物園における学術研究の日常的努力を怠ってはいけない。
著者
森崎 玲大 小島 仁志 金澤 朋子 村田 浩一 小谷 幸司
出版者
公益社団法人 日本造園学会
雑誌
ランドスケープ研究 (ISSN:13408984)
巻号頁・発行日
vol.83, no.5, pp.597-602, 2020-03-30 (Released:2020-06-09)
参考文献数
17

This study targeted six exhibition zones with different characteristics at the Yokohama Zoo “Zoorasia ,” which grasped visitor satisfaction at each exhibition zone, clarified the relationship between visitor satisfaction and the purpose and attributes of visitors, identified the management and operation issues at each exhibition zone from a visitor satisfa ction perspective, and examined the factors that led to its occurrence. Ultimately, the aim of this study was to discuss a response policy in relati on to the management and operation policy of Zoorasia. The main results of this study are as follows:(1) Visitor attributes are classified into three types. (2) The degree of visitor satisfaction varies by exhibition zone and visitor type. (3) The factors affecting overall visitor satisfaction vary by exhibition zone and visitor type. (4) The management and operation issues (important improving items) vary by exhibition zone. With the above results, the response policy was discussed by relating issues in the management and operation of each exhibition zone with the current management and operation policy.
著者
村田 浩一
出版者
公益社団法人 日本獣医師会
雑誌
日本獣医師会雑誌 (ISSN:04466454)
巻号頁・発行日
vol.41, no.11, pp.811-813, 1988-11-20 (Released:2011-06-17)
参考文献数
12
被引用文献数
8 7

神戸市近郊で保護された傷病野生イノシシ17頭について, ラテックス凝集 (LA) 反応によるトキソプラズマ (Tp) 抗体保有状況の調査を行った. 17頭中9頭が陽性 (32≤) であった. さらに, Tp抗体価128倍を示した5個体について, 免疫グロブリンの分画を行い各分画の抗体価を測した.生後2日齢および20日齢の個体のTp抗体は, IgGを示す単峰性のピークであることから, 母体よりの移行抗体であると考えられ, 母体の感染が凝われた. IgMとIgGを示す2峰性のピークをもつ成獣は, Tp感染の初期の状態にあると考えられた.これらの結果から, 野生下のイノシシも広範にTp感染を受けていることが示唆され, 野生動物との接触ならびに捕獲, 摂食については十分な配慮が必要であると思考された.
著者
村田 浩一
出版者
日本野生動物医学会
雑誌
Japanese journal of zoo and wildlife medicine (ISSN:13426133)
巻号頁・発行日
vol.7, no.2, pp.145-148, 2002-09
参考文献数
6

飼育下アジアゾウ(Elephas maximus)3個体の体表にゾウハジラミ(Haematomyzus elephantis)寄生を認めた。感染個体は高度の〓痒感を示し,室内の壁面や床面に体を擦り付ける行動が見られたが,これによる擦過傷や丘疹の発生は認めなかった。合成ピレスロイド系薬剤の寄生部位への局所投与には効果がなかった。カーバメイト系シャンプー剤による全身洗浄を約2か月間に5〜7回行ったところ著効が認められた。ゾウの検疫にはゾウハジラミ寄生にも注意を払う必要がある。
著者
田中 魁 炭山 大輔 金澤 朋子 佐藤 雪太 村田 浩一
出版者
日本野生動物医学会
雑誌
日本野生動物医学会誌 (ISSN:13426133)
巻号頁・発行日
vol.24, no.2, pp.65-71, 2019-07-11 (Released:2019-09-15)
参考文献数
32
被引用文献数
4

近年,血液原虫研究分野では,形態学に加えて分子生物学的手法を用いた種分類や系統解析がなされており,特に国外におけるハト目鳥類(Columbiformes)の血液原虫研究においては,形態学的特徴を基に分類された種数をはるかに超える分子系統の存在が明らかになりつつある。しかし,国内のハト目鳥類における血液原虫の感染状況や分子系統に関する研究は未だ極めて少ない。そこで本研究では,日本国産(関東圏,沖縄,小笠原の3地域)のハト目鳥類における血液原虫の感染実態と分子系統を明らかにすることを目的とした。対象地域のハト目鳥類(4属5種3亜種173個体)における血液原虫感染率は,50.9%(88/173)であった。分子系統解析の結果,少なくとも2属2亜属5種の鳥マラリア原虫(Plasmodium spp. / Haemoproteus spp.)と,4種のLeucocytozoon属原虫が感染している可能性を示した。ハト科のLeucocytozoon属原虫は,これまで形態学的に1種のみが同定され,他の原虫属と比較しても種特異性が高いことが報告されているが,本研究において分子系統的に宿主鳥類の目間を越える原虫の伝播が生じている可能性が示唆された。本研究から得られた感染実態と分子系統解析結果は,血液原虫の分類を見直す必要性を提示し,今後も同様の継続的な監視・調査を行うことが,国内に生息する希少ハト目鳥類の保全に貢献すると考えた。
著者
村田 浩一
出版者
公益社団法人 日本獣医師会
雑誌
日本獣医師会雑誌 (ISSN:04466454)
巻号頁・発行日
vol.40, no.12, pp.846-849, 1987-12-20 (Released:2011-06-17)
参考文献数
35
被引用文献数
2 2

神戸市近郊で保護された傷病野生動物, ならびに動物園内で保護もしくは捕獲されたネコとドブネズミについて, ラテックス凝集反応によるトキソプラズマ (Tp) 抗体保有調査を行った.調査対象である野生哺乳類4種19個体, 鳥類20種77個体, 爬虫類1種2個体のうち, Tp抗体価32倍以上を示したものは哺乳類で37%(7/19個体), 鳥類で3%(2/77個体), 爬虫類で0%(0/2個体) であった.動物園内で保護もしくは捕獲されたネコ17個体とドブネズミ15個体のTp抗体価はいずれも16倍以下であった.
著者
佐藤 雪太 萩原 未央 山口 剛士 湯川 眞嘉 村田 浩一
出版者
社団法人日本獣医学会
雑誌
The journal of veterinary medical science (ISSN:09167250)
巻号頁・発行日
vol.69, no.1, pp.55-59, 2007-01-25
被引用文献数
3 15

日本の野鳥に感染が見られたロイコチトゾーン(Leucocytozoon spp.)の分子系統関係の解析を試みた.血液塗沫観察によりロイコテトゾーン感染を確認した北アルプス立山および爺ヶ岳に生息するライチョウ9個体および兵庫県内で保護された野鳥7種13個体(ハシブトガラス4羽,ハシボソガラス2羽,コノハズク2羽,ヤマドリ1羽,イカル1羽,ホンドフクロウ1羽,ヒヨドリ2羽),計22個体の血液からDNAを抽出した.次いでロイコチトゾーンのミトコンドリアチトクロームb(cytb)の部分塩基配列に基づきプライマーを設計し,nested PCRで特異的増幅を試み,増幅産物のシーケンスを決定して配列比較を行った.その結果,ライチョウ9個体すべて(100%),その他の野鳥(ハシブトガラス,ハシボソガラス,イカル,ヒヨドリおよびコノハズク)13個体中11個体(84.6%)でPCR増幅が見られた.増幅されたcytb部分塩基配列約465bpを用いて系統樹を構築したところ,ライチョウと他鳥種寄生のロイコテトゾーンとの間で大きく分岐した.本研究は,日本における野鳥寄生ロイコチトゾーンを分子系統学的に解析した初めての報告である.
著者
柳井 徳磨 酒井 洋樹 後藤 俊二 村田 浩一 柵木 利昭
出版者
日本野生動物医学会
雑誌
日本野生動物医学会誌 (ISSN:13426133)
巻号頁・発行日
vol.7, no.1, pp.45-51, 2002 (Released:2018-05-04)
参考文献数
25
被引用文献数
1 1

近年,動物園では飼育技術の向上に伴い,動物の長期生存が可能になり様々な腫瘍性病変に遭遇する機会が増えた。これらの腫瘍性病変を検索し,情報を蓄積することは,ヒトの同様な腫瘍の発生原因を解明するうえで有用である。我々は,ヒト腫瘍との比較のために,ヒトに類縁なサル類の様々な腫瘍,アジア産クマ類の胆嚢癌に着目して症例を蓄積し,データベース化を試みている。以下に概要を紹介する。1) サル類の腫瘍:サル類における腫瘍発生の報告は極めて少ない。動物園で飼育した各種のサル約600例を検索して,13例に腫瘍性病変が認められた。神経系では,カニクイザルの大脳に星状膠細胞腫,消化器系では,ニホンザルの下顎にエナメル上皮歯芽腫,ブラッザグエノンに胃癌,シロテテナガザルおよびボウシラングールの大腸に腺癌が認められた。内分泌系では,ワタボウシタマリンの副腎に骨髄脂肪腫,オオガラゴの膵臓に内分泌腺癌が認められた。造血系では,ニホンザル2例の脾臓にリンパ腫,ハナジログエノンのリンパ節にリンパ腫が認められた。その他,ムーアモンキーの卵巣に顆粒膜細胞腫,ニホンザルの皮膚に基底細胞腫が認められた。これらサルの腫瘍の形態学的特徴は,ヒトの同種のものと酷似していた。2) クマ類の胆嚢癌:動物園で飼育されているナマケグマとマレーグマに,胆嚢癌が好発することが知られている。7例のクマ類に発生した胆嚢癌を検索し,その病理学的特徴を調べた。組織学的には管状腺癌の浸潤と線維化が高度である。クマ類の胆嚢癌はヒト胆嚢癌の有用なモデルとなりうると考える。
著者
壁谷 英則 藤田 雅弘 森田 幸雄 横山 栄二 依田 清江 山内 昭 村田 浩一 丸山 総一
出版者
公益社団法人 日本獣医師会
雑誌
日本獣医師会雑誌 (ISSN:04466454)
巻号頁・発行日
vol.61, no.1, pp.70-74, 2008-01-20 (Released:2011-06-17)
参考文献数
13
被引用文献数
2 1

全国23都道府県のペットのグリーンイグアナについてSalmonella, PastemllaおよびStaphylococcusの保菌状況を検討した.Salmonellaは, 98頭中17頭 (17.3%) の糞便から分離された. 分離株49株中47株は, 生物群IVのS. enterica subsp. houtenaeであり, わが国のイグアナが原因と思われる乳児サルモネラ症の原因となった血清型45: g, Z51:-が3株, 生物群IのS. enterica subsp.entericaも2株分離された. 陽性個体17頭由来の17株中9株 (52.9%) はstreptomycin耐性株であり, また, すべての株は上皮細胞侵入因子 (invA) およびエンテロトキシン (stn) 両遺伝子を保有していた.P. multocidaは89頭中3頭 (3.4%) から, また, S. aureusは18頭 (20.2%) の口腔からそれぞれ分離された.
著者
浜 夏樹 村田 浩一 野田 亜矢子 川口 美保子 酒井 洋樹 柵木 利昭 SASSEVILLE Vito G. 柳井 徳磨
出版者
日本野生動物医学会
雑誌
日本野生動物医学会誌 (ISSN:13426133)
巻号頁・発行日
vol.3, no.1, pp.53-58, 1998
参考文献数
16
被引用文献数
2

動物園で飼育していた雌マヌルネコの1例が突然元気がなくなり, 食欲が廃絶した。血液および生化学検査では, 貧血, 著明な好中球の左方移動, 低リンパ血症, 高蛋白血症, 尿素窒素およびクレアチニンの上昇, 電気泳動像ではガンマーグロブリン分画の著明な増加が認められた。尿検査では, 蛋白尿と潜血が認められた。血清抗体検査では, ネコ伝染性腹膜炎(FIP)抗体の著明な上昇(25,600)がみられたが, ネコ白血病ウイルス(FLV)抗原およびネコ免疫不全ウイルス(FIV)抗体はそれぞれ陰性であった。剖検では, 左右腎臓は腫大し, 巣状多中心性, 一部は癒合しつつある白色結節が皮質に認められた。肝臓では, 実質内に小壊死巣が散見された。胸水および腹水の貯留は認められなかった。組織学的には, 血管炎を伴う壊死あるいは好中球の浸潤を伴う肉芽腫性反応が, 腎皮質, 肝臓, リンパ節および肺胸膜に種々の程度に認められた。直接蛍光抗体法によりFIPV抗原が肉芽腫病変内に浸潤する大食細胞に認められた。以上のことから, 本例は非滲出型ネコ伝染性腹膜炎と診断された。また, 動物園における野生ネコ科動物への同ウイルスの感染および発病の可能性が示された。
著者
村田 浩一
出版者
日本野生動物医学会
雑誌
日本野生動物医学会誌 (ISSN:13426133)
巻号頁・発行日
vol.19, no.4, pp.131-135, 2014-12-22 (Released:2018-05-04)
参考文献数
9
被引用文献数
1 1

近年,高病原性鳥インフルエンザ,口蹄疫等の家畜感染症が世界各地で発生し,野生動物との関わりが懸念されている。これらの感染症は,野生動物の生物学的移動や商業的な移動に伴い広域的に伝播し流行する可能性があるため,そのリスクを正しく評価し対応するには,野生動物感染症情報ネットワークの構築と感染症発生に対する早期警報システムの導入が必須であり,これらに関する基盤的調査研究を国際連携の下で実施する必要がある。国立の野生動物医学研究機関による家畜と野生動物の共通感染症防御を目的としたサーベイランス体制の構築が望まれるが,経済的もしくは社会的事由に加え,本分野に関与する専門家の少なさもあって実現は容易でない。そこで,世界中の動物園で日常的に野生動物の健康管理に従事している専門家としての獣医師に着目し,国際的な動物園ネットワークと動物園獣医師との協働による野生動物感染症の監視・制御体制を提案したい。その人的交流と感染症対策技術が広域的に共有され活用されることで,野生動物感染症情報ネットワークおよび野生動物と家畜の共通感染症発生に対する早期警報システムが構築され,将来的により組織的な野生動物感染症防御へ発展することが期待される。国際的な動物園獣医師の連携は,保全医学に基づく家畜を含む動物とヒトと生態系の健康,すなわち生態学的健康(Ecological Health)の維持に貢献できる。
著者
高見 一利 渡邊 有希子 坪田 敏男 福井 大祐 大沼 学 山本 麻衣 村田 浩一
出版者
日本野生動物医学会
雑誌
日本野生動物医学会誌 (ISSN:13426133)
巻号頁・発行日
vol.17, no.2, pp.33-42, 2012-06-29 (Released:2018-07-26)
被引用文献数
1

2010年度に,日本各地で野鳥から高病原性鳥インフルエンザウイルスが確認され大きな問題となるなか,発生地や調査研究機関など各所で体制作りが進められた。日本野生動物医学会も,野生のツルへの感染が確認された鹿児島県に専門家の派遣を行い現場作業に貢献した。これらの取り組みから一定の成果が得られ,情報収集や体制構築の検討も進んだ一方で,様々な課題や問題点も明らかとなった。一連の活動や検討を踏まえた結果,野生動物感染症対策を効果的に促進するためには,感染症の監視と制御に役立つ体制を構築することが必要であると考えられた。従って,本学会は体制整備として,以下の取り組みを進めることを提言する。1.野生動物感染症に関わる法律の整備2.野生動物感染症に関わる省庁間の連携3.野生動物感染症に関わる国立研究機関の設立4.野生動物感染症に関わる早期警報システムの構築5.野生動物感染症に関わる研究ネットワークの構築6.野生動物感染症に関わる教育環境の整備この提言は,本学会の野生動物感染症に対する方向性が,生態学的健康の維持にあることを示すものである。
著者
村田 浩一
出版者
日本野生動物医学会
雑誌
日本野生動物医学会誌 (ISSN:13426133)
巻号頁・発行日
vol.24, no.2, pp.41-47, 2019

<p> 日本に初めて誕生した動物園は,フランス革命直後の1794年に開園したパリ国立自然史博物館内の植物園附属動物園(Ménagerie, le zoo du Jardin des Plantes)をモデルにしている。幕末にそこを訪れた田中芳男や福澤諭吉は,西欧文化や博物学の奥深さに驚いたことだろう。当時の動物園(メナジェリー)には,ラマルク,サンチレール,そしてキュヴィエなど,現在もなお名を馳せている学者たちが関与していた。動物園の歴史が,博物学や動物学や比較解剖学などの学術研究を基盤としている証左である。しかし,本邦の動物園は,その基盤の重要性を認識していた形跡が明治時代の文書である「博物館ノ儀」に認められるにも関わらず,上野公園に動物園が創設されて以降とくに戦後の発展過程において継承されることなく現在に至っている。国内動物園で学術研究が滞っているのは,研究環境が十分に整っていないことが原因であるのは確かだ。だが,それだけだろうか? 現今の停滞を打開するために日本の動物園関係者が必要とするのは,200年以上に及ぶ動物園における学術研究の歴史を背負い,時代に応じた新たな研究を興し,その成果を世界に向けて発信する覚悟ではないかと思う。動物園が歴史的に大切にしてきた"研究する心"を持って新たな未来を切り開くために闘い続けるべきであろう。</p>
著者
片野 理恵 楠田 哲士 楠比 呂志 村田 浩一 木村 順平
出版者
日本野生動物医学会
雑誌
Japanese journal of zoo and wildlife medicine (ISSN:13426133)
巻号頁・発行日
vol.11, no.2, pp.67-71, 2006-09

国内の飼育下アミメキリン(Giraffa camelopardalis reticulata)およびマサイキリン(G.c. tippelskirchi)の死亡個体から得られた精巣および精巣上体を用いて生理学的な性成熟年齢を推定した。本邦の動物園で飼育されていた雄10個体を対象とし,精巣組織切片のHE染色およびPAS-Hematoxylin染色標本を作製して組織学的観察を行った。その結果,5.9歳以上のすべての個体において精巣および精巣上体内に精子が確認された。また,テストステロン産生の動態を知るためにコレステロール側鎖切断酵素(P450scc)の局在を免疫組織化学的に検索した。その結果,2.5歳と5.9歳以上の個体で局在が認められた。国内血統登録記録を用いて1907〜2000年の出産年月日をもとに,雄の初回交尾時年齢を推定した結果,3〜5歳が最も多く,組織学的解析結果と類似していた。国内の各動物園における1施設当たりの雄個体数は少なく,上位個体に交尾阻害される野生環境と比較し若雄でも繁殖可能であることから,飼育下では繁殖開始年齢が低下すると推察された。
著者
柳井 徳磨 野田 亜矢子 村田 浩一 安田 伸二 浜 夏樹 酒井 洋樹 柵木 利昭
出版者
日本野生動物医学会
雑誌
Japanese journal of zoo and wildlife medicine (ISSN:13426133)
巻号頁・発行日
vol.7, no.2, pp.153-156, 2002-09

14歳の雄カナダオオヤマネコの左頚部皮膚に発生した扁平上皮癌の病理学的特徴を調べた。剖検では,左頚部皮膚は潰瘍を伴い著しく肥厚し,皮下には形状が不規則な黄白色腫瘤が左耳下腺部および左下顎に認められた。組織学的には,腫瘤は分化型扁平上皮癌の浸潤増殖からなり,高度な線維化を伴っていた。この癌は広範囲で深い浸潤を示し気管周囲にまで到達していた。免疫組織学的には,腫瘍細胞の細胞質ケラチンおよびサイトケラチンAE1およびAE3に対する陽性反応が認められた。本腫瘍の形態学的特徴はネコのそれとよく類似していた。
著者
津田 良夫 佐々木 絵美 佐藤 雪太 片野 理恵 駒形 修 伊澤 晴彦 葛西 真治 村田 浩一
出版者
日本衛生動物学会
雑誌
衛生動物 (ISSN:04247086)
巻号頁・発行日
vol.60, no.2, pp.119-124, 2009
被引用文献数
7

2006年6月〜10月に渡り鳥の飛来地である東京湾沿岸の谷津干潟と東京港野鳥公園で,ドライアイストラップを用いて疾病媒介蚊の種類相および密度に関する調査を行った.これら2調査地で以下の6種類の蚊が採集された:アカイエカ群,ヒトスジシマカ,イナトミシオカ,コガタアカイエカ,カラツイエカ,トラフカクイカ.東日本で初めてイナトミシオカの生息が確認された.アカイエカ群とヒトスジシマカの密度が高く,東京湾沿岸における重要なウエストナイルウイルスの潜在的媒介蚊であると考えられた.