著者
山本 ゆき 山本 達也 ALLEN Twink STANSFIELD Fiona 渡辺 元 永岡 謙太郎 田谷 一善
出版者
日本繁殖生物学会
雑誌
日本繁殖生物学会 講演要旨集 第104回日本繁殖生物学会大会
巻号頁・発行日
pp.223, 2011 (Released:2011-09-10)

【背景と目的】ゾウの生殖メカニズムには未解明な点が多く,妊娠維持機構もその一つである。ゾウの妊娠期間は,約22ヶ月間と,陸上哺乳類で最も長く,卵巣には,妊娠期を通して複数の大きな黄体が存在している。アフリカゾウの胎盤では,ステロイドホルモンの合成が行われていないと考えられており,妊娠全期間を通して,プロジェステロン(P)は黄体から分泌されていると推察される。しかし,妊娠期中の黄体を刺激する因子は未だ発見されていない。私共は,ゾウの妊娠後半期に、血中プロラクチン(PRL)濃度が高値を示し、胎盤中にはPRL様物質が含有されていることを明らかにしてきた。本研究では,ゾウの妊娠維持機構の解明を目的として,アフリカゾウの全妊娠期間を通した胎盤中PRL様物質の局在を解析し,P分泌との関連性を検討した。 【材料と方法】南アフリカ共和国およびジンバブエで淘汰された妊娠アフリカゾウ38頭から,妊娠初期から末期にかけての胎盤および子宮内膜を採取し,抗ヒトPRL抗体を用いて免疫組織化学染色を行った。 【結果】着床前の,子宮内膜に接着している栄養膜細胞において,明瞭なPRL様物質の陽性反応が認められ、子宮内膜腺にもわずかに陽性反応が認められた。着床以降の胎盤組織においても,全妊娠期間を通し胎盤の栄養膜細胞に明瞭な陽性反応が認められた。 【考察】これらの結果から,アフリカゾウの妊娠期において,着床前の段階から栄養膜細胞がPRL様物質を分泌していると推察された。今回局在が認められたのが栄養膜細胞であることから,胎盤性ラクトージェン(PL)である可能性が示唆された。ゾウでは,排卵後、血中P濃度は上昇するがその後一時的に低下,着床の起こる妊娠約7週に再度上昇し,分娩まで高値を維持する。これらの結果を総合すると,ゾウでは着床以降,栄養膜細胞のPRL様物質がパラクリン的に黄体に作用し,P分泌を刺激して22ヶ月間の妊娠を維持しているものと推察された。 本研究は,乾太助記念動物科学研究助成基金によって支援された。