著者
羽田 真悟 長谷川 達也 永岡 謙太郎 南保 泰雄 松井 基純 角田 修男 今川 和彦
出版者
日本繁殖生物学会
雑誌
日本繁殖生物学会 講演要旨集
巻号頁・発行日
vol.104, pp.1022, 2011

【目的】哺乳類の着床に,gp130ファミリーのサイトカインが関与することが知られている。このファミリーのサイトカインには,マウスにおいて着床に必須もしくは重要とされるLeukemia inhibitory factor(LIF)やInterleukin-11(IL11), IL6などが含まれる。しかし,ウマでは,ゲノム解析は終了しているが,現時点においてLIFに相当する遺伝子はゲノム上になく,IL11に相当する遺伝子は機能する配列として認識されていない。我々は,これまでの研究において着床期のウマの子宮内膜でIL6の発現を確認している。そこで,本研究では,着床におけるIL6発現の経時的変化,子宮の部位による発現量の比較および発現細胞の特定を目的とした。【方法】試験には,サラブレッド種雌ウマ10頭を使用した。排卵日を0日とし,非妊娠13日(C13),妊娠13日(P13),19日(P19),25日(P25)および30日(P30)にそれぞれ2頭ずつから子宮を回収した。子宮は,胚の存在する部位(G)と逆側の子宮角の根元(N)に分けて採材した。また,P30Gにおいては,子宮内膜を卵黄嚢絨毛膜(P30GY)および尿膜絨毛膜(P30GA)と接触する部位に分けて採取した。解析は,リアルタイムPCR法により行い,各子宮内膜サンプル中のIL6 mRNAの発現量を比較した。さらに,免疫組織学的手法により子宮内膜でのIL6タンパク質の産生部位を調べた。【結果】子宮内膜のIL6 mRNAの発現は,P19Gで軽度な増加が認められ,P25GおよびP30Gでは顕著に増加していた。P30Gにおけるその発現は,P30GYと比較してP30GAでより高かった。これらの結果から,IL6 mRNAの発現は,胚の存在により固着後の子宮内膜中に誘導され,その発現は胚のカプセルが融解して胚と子宮内膜が直接接するようになる時期に重要であることが示唆される。さらに,IL6 mRNAの発現は尿膜絨毛膜に接触した部位で高く,IL6タンパク質は子宮内膜上皮の細胞に検出されたことから,IL6は,着床過程において胚と子宮内膜の接着面,特に尿膜絨毛膜との境界面で作用することが示唆され,胎盤形成などの反応に関わるものと考えられる。
著者
永岡 謙太郎 平山 和宏 辨野 義己
出版者
東京農工大学
雑誌
挑戦的研究(萌芽)
巻号頁・発行日
2017-06-30

私たちの健康維持には腸内細菌叢が深く関わっています。本研究では、マウスを用いた実験により、母乳中のアミノ酸代謝から産生される過酸化水素が乳子の腸内細菌叢の形成に関与していることを明らかにしました。過酸化水素は乳子の消化管内において外部から侵入してくる様々な細菌に対して門番の様な役割を担っており、乳酸菌など過酸化水素に抵抗性を示す細菌が優先的に腸内に定着していました。本研究結果は、母乳中に含まれる過酸化水素の重要性を示すとともに、アミノ酸や活性酸素による腸内細菌制御方法の開発につながることが期待されます。
著者
山本 ゆき 山本 達也 ALLEN Twink STANSFIELD Fiona 渡辺 元 永岡 謙太郎 田谷 一善
出版者
日本繁殖生物学会
雑誌
日本繁殖生物学会 講演要旨集 第104回日本繁殖生物学会大会
巻号頁・発行日
pp.223, 2011 (Released:2011-09-10)

【背景と目的】ゾウの生殖メカニズムには未解明な点が多く,妊娠維持機構もその一つである。ゾウの妊娠期間は,約22ヶ月間と,陸上哺乳類で最も長く,卵巣には,妊娠期を通して複数の大きな黄体が存在している。アフリカゾウの胎盤では,ステロイドホルモンの合成が行われていないと考えられており,妊娠全期間を通して,プロジェステロン(P)は黄体から分泌されていると推察される。しかし,妊娠期中の黄体を刺激する因子は未だ発見されていない。私共は,ゾウの妊娠後半期に、血中プロラクチン(PRL)濃度が高値を示し、胎盤中にはPRL様物質が含有されていることを明らかにしてきた。本研究では,ゾウの妊娠維持機構の解明を目的として,アフリカゾウの全妊娠期間を通した胎盤中PRL様物質の局在を解析し,P分泌との関連性を検討した。 【材料と方法】南アフリカ共和国およびジンバブエで淘汰された妊娠アフリカゾウ38頭から,妊娠初期から末期にかけての胎盤および子宮内膜を採取し,抗ヒトPRL抗体を用いて免疫組織化学染色を行った。 【結果】着床前の,子宮内膜に接着している栄養膜細胞において,明瞭なPRL様物質の陽性反応が認められ、子宮内膜腺にもわずかに陽性反応が認められた。着床以降の胎盤組織においても,全妊娠期間を通し胎盤の栄養膜細胞に明瞭な陽性反応が認められた。 【考察】これらの結果から,アフリカゾウの妊娠期において,着床前の段階から栄養膜細胞がPRL様物質を分泌していると推察された。今回局在が認められたのが栄養膜細胞であることから,胎盤性ラクトージェン(PL)である可能性が示唆された。ゾウでは,排卵後、血中P濃度は上昇するがその後一時的に低下,着床の起こる妊娠約7週に再度上昇し,分娩まで高値を維持する。これらの結果を総合すると,ゾウでは着床以降,栄養膜細胞のPRL様物質がパラクリン的に黄体に作用し,P分泌を刺激して22ヶ月間の妊娠を維持しているものと推察された。 本研究は,乾太助記念動物科学研究助成基金によって支援された。