著者
浜下 昌宏 STURTZSREETHARAN Cindi L.
出版者
神戸女学院大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2006

本研究の目的は、関西弁を話す女性の話し方の特徴を調査・分析することにある。一般に関西女性の話者は関西弁を話すことで個々の場合において個性と主体性を維持している。より限定して本研究が追究するのは、関西女性の個々の言語活動が関西女性としてのジェンダー(女性的役割の表現)の創出に寄与し、日本語の中の女性語という、より一般的な領域へも関与していることである。その女性語とは、社会言語学的事実というより、社会的意識(イデオロギー)を構成しているものである。そうした研究目的のために、言語表現の特殊な側面に焦点が当てられる。すなわち、文末の口調(「ね」「てよ」「のよ」「わね」、等々)や、話しかけや指示の人称語(「わたし」「あなた」「あんた」、等々)に注目する。その調査を通して明らかにしたいことは、(1)女性同士の日常会話でそうした語法をしているかどうか、(2)もししているのであれば、どの程度しているのか、ということである。作業として、データを収集するために、60人以上の話者によって話された20の会話を収集した。(各会話はほぼ80分である。)録音したその会話を書き取るという作業が現在、進行中である。そのデータには、30代前半の若い女性から75歳の老女までの会話が含まれている。また話者は大阪から兵庫在住の女性にまでわたっている。予備的分析の結果、関西女性は日本女性の標準的な言語使用をしてことが明らかになった。たとえば、日本語の中の女性言葉という、きわめて社会的意識の強い言葉を使っていることが理解できた。しかしながら、彼女たちはそうした言語活動を通して、たんに女性としての主体性を創りだしているのみならず、そうした態度をみずから楽しんでいるようでもあり、さらにまた、そのような楽しんでいる言語活動により、日本女性として振舞いかつ話すべしという社会的心理的なプレッシャーを拒んでいるようである。さらなる分析によって、さまざまな年齢と地域的主体性をもった女性の話者の会話例をつうじて、そのような解釈がどの程度まで妥当かどうか、を解明したい。研究の進行状況としては、上記の録音テープの書き起こし作業は本年5月中に完成済みであり、現在、データ分析を遂行中である。さらに研究成果論文を近日中に完成し、学会誌掲載の審査を受けるべく、本年12月ころに審査員に提出の予定である。