著者
飯塚 幸子 Sachiko Iizuka
出版者
学習院大学人文科学研究所
雑誌
人文 (ISSN:18817920)
巻号頁・発行日
no.7, pp.67-86, 2009-03-28

本論では、心理療法におけるなぐり描きやなぐり描き法について現在の考えられ方を確認した上で改めて考え、その中に含まれているさらなる可能性について検討した。なぐり描き法において起こるのは投影であると一般に考えられている。しかし、投影に限らない、転回・展開の可能性が「なぐり描くこと」に存在すると考えることも可能である。この考えをもとに本論では、なぐり描き法におけるなぐり描くこと自体の重要性を、日本神話における「国生み」のエピソードに示される混沌の攪拌の重要性や、ケロッグ(1969/1998)の児童画研究に見出される形の変遷の意味の検討から改めて示唆した。そして、なぐり描きを真摯に行うことから、何かが生まれてきたり、より洗練された全体性のイメージが現れてきたりすることがあることを示し、なぐり描きにはその中からある種の統合が生まれてくる可能性が含まれていることについて考察した。またこれらより、心理療法において単純に既成の方法としてなぐり描き法を使用することの危険性を示唆した。