著者
佐々木 長生 Sasaki Takeo
出版者
神奈川大学 国際常民文化研究機構
雑誌
神奈川大学 国際常民文化研究機構 年報 (ISSN:21853339)
巻号頁・発行日
vol.3, pp.107-126, 2012-09-28

民具名称のなりたちについて、自然環境および歴史的背景からの多様性の一例として、会津地方の山袴の名称を取り上げる。調査対象地は、福島県南会津郡只見町の民具名称を中心に、会津地方と隣接する新潟県魚沼地方を主な範囲とする。また、民具名称の歴史的背景については、貞享元年(1684)の『会津農書』や翌年の会津各地の風俗帳、文化4年(1707)の風俗帳、紀年銘のある農耕図絵馬や農書類に描かれた絵画資料を分析資料とする。新潟県魚沼地方の天保7年(1836)に著述された鈴木牧之の『北越雪譜』の記述と、併せてそこに描かれた絵図も比較資料として用いた。一方、民具としての資料としては只見町所蔵の重要有形民俗文化財指定「会津只見の山村生活用具と仕事着コレクション」(2333 点)や、会津民俗館所蔵の福島県指定重要有形民俗文化財指定「会津の仕事着コレクション」(476 点)なども資料として用いた。特に只見地方の民具については、『図説 会津只見の民具』を中心に使用方法等を写真で示し、『北越雪譜』に描かれた民具の使用風形や形態の比較資料とした。 以上の研究方法から、近年まで着用されてきた会津地方の仕事着姿、「ジバン(上衣)にサルッパカマ(下衣)」という一般的な名称のなりたちについて、その民俗的・歴史的な視点から考察することが本稿の目的である。特に、サルッパカマと呼ばれる山袴については、会津平坦部での名称である。一方、大沼郡の山間部から南会津郡西部地区ではユッコギ・カリアゲユッコギ、またはホソッパカマ等の名称が一般的である。ユッコギは「雪こぎ」からの名称とみられ、深雪地方に存在するとするという仮説もある。サルッパカマの名称も文化4年の『熊倉組風俗帳』(喜多方市熊倉付近)等に初出して、その30 年ほど前から着用され始まったとある。それ以前の農耕図には、山袴類の着用は確認することができない。このように民具名称を歴史的に確認できることは、民具名称のなりたちを考えるうえで、きわめて有効な資料であろう。会津地方の山袴の名称、サルッパカマやカリアゲユッコギはその一例である。論文