著者
佐藤 宗子 サトウ モトコ Sato Motoko
出版者
千葉大学教育学部
雑誌
千葉大学教育学部研究紀要 (ISSN:13482084)
巻号頁・発行日
vol.56, pp.438-431, 2008-03

これまで戦後の「少女」向け翻訳・再話叢書を検討してきた中からは、行動的な少女造型が浮かび上がってきていた。今回は、その先にどのような結末が予定されているのかをあわせて念頭に置き、戦前の『少女倶楽部』に連載された、佐藤紅緑の「緑の天使」を中心に検討することとした。ディケンズ『オリヴァー・トゥイスト』を原作とするこの翻案に登場する三人の少女、雛子の創造およびお玉(玉子)と雪子の改変された造型を分析することを通して、少女の行動力がハッピー・エンドへの改変をも導いたこと、同時に大団円ではいずれも結婚が報告されていることの意味を考察した。行動する少女の行く末として結婚が予定されることに関しては、戦後の「講談社マスコット文庫」などにも言及し、時代性の中での翻訳者・再話者の意識のあり方について、その可能性と限界とを指摘した。
著者
佐藤 宗子 サトウ モトコ Sato Motoko
出版者
千葉大学教育学部
雑誌
千葉大学教育学部研究紀要 (ISSN:13482084)
巻号頁・発行日
vol.61, pp.510-503, 2013-03

一九六四年から刊行が開始された小学館「少年少女世界の名作文学」は、先行して一九五〇年代に刊行された創元社と講談社の二つの「地域割り」叢書の形式を受け継ぐ形式をとるものであった。しかし、先行二叢書とは内容と外観の双方で、かなり異なる様相となっている。そこで「地域割り」の巻数の割り当て方、収録作品の傾向、訳出の方法等の特徴を検証し、その後、とくに本体にはめ込まれた表紙絵に焦点化しながら、視覚的情報の盛り込まれ方にも目を向けた。その中で、一般文学からの作品収録が多い半面、いわゆる「和文和訳」の方式が多用されることがもたらす弊害が生じていること、表紙を飾るカラーの泰西画群が形成する別種の「教養」が想定されていることなどを明らかにした。また、こうした形態の叢書の出現が、経済成長を背景にして、児童文学が産業として発展していく中で見られる点にも着目した。
著者
佐藤 宗子 サトウ モトコ Sato Motoko
出版者
千葉大学教育学部
雑誌
千葉大学教育学部研究紀要 (ISSN:13482084)
巻号頁・発行日
vol.57, pp.406-398, 2009-03

一九五〇年代から六〇年代にかけて、「少年少女」を冠した叢書が数多く刊行されている状況を概観し、そこに第二次大戦後の日本の文化・社会状況における、「少年少女」が「読書」することへの期待が内在しうることを確認した。とくに創元社刊行の「世界少年少女文学全集」をとりあげ、各巻の付録紙面や関連する版元の雑誌の特集号、第二部の内容見本など、全集本体よりむしろその周囲に注目する中から、「少年少女」が、戦後の状況の中で新たに区切られた「小学校高学年から中学生」の時期として明確に認識されていたこと、「家庭」と「学校」の二つの享受の場が両立して認識されていたこと、発信者側を含めた三者が子ども読者を囲い「読書」への期待を向けていたこと、発信者側が「教養」の「形成」を念頭においていたこと、子ども読者側もそれと連動した「読書」観を抱いていたこと、当時の読書指導との関連があることなどが明らかとなった。