著者
佐藤 宗子
出版者
千葉大学教育学部
雑誌
千葉大学教育学部研究紀要 = Bulletin of the Faculty of Education, Chiba University (ISSN:13482084)
巻号頁・発行日
no.67, pp.410-402, 2019-03-01

[要約] 第二次世界大戦後に刊行された少年少女向文学叢書は、新制中学発足に伴う十代前半の「少年少女」読者の出現をうけて、この新しい読者層に対する「教養形成」の役割を担った。これらの叢書のうち日本近代文学を対象とする叢書は、1950年代以降、当初はカノン形成が図られつつ国語教育の補完的意義も比較的強く有していたが、60年代に入り、偕成社「ジュニア版 日本文学名作選」において、また対抗するポプラ社「アイドル・ブックス」においては、作品主体の叢書となり、書目の編成にも特定作家や特定作品の定着が見られるようになってきた。また、それらの叢書は、資料館に残された読書の痕跡等から、家庭における読書を念頭に置いたものであり、近しい年長者から年少の読者に向けて、「教養形成」を図る趣旨で手渡されていたことが容易に想像される。こうした叢書が1980年代まで20年近く読み継がれていた事実を、児童文学全体の中でどのように評価すべきかは、今しばらく時間をかけて検討していく必要があるだろう。
著者
佐藤 宗子
出版者
千葉大学教育学部
雑誌
千葉大学教育学部研究紀要 = Bulletin of the Faculty of Education, Chiba University (ISSN:13482084)
巻号頁・発行日
no.69, pp.334-329, 2021-03-01

[要約] 「現代児童文学」を代表する作家・評論家の一人、古田足日の中級向けSF短編集『月の上のガラスの町』所収の「アンドロイド・アキコ」は、一九六四年に初出誌に発表された時点から、盛光社刊行の初刊、そして加筆訂正された童心社版と、改稿されつつ読み継がれてきた。古田の短編の代表作である同作の改稿過程を丁寧に検証することを通して、そこにみられる「子ども」観、「ジェンダー」観、さらには「恋愛」にまつわる言説に関する「近代」観を追究していった。古田は六〇年代の早い時期からSFに関心を抱き、月面上の町という架空の設定をしたが、そこでの男女の人物造型における当初の自身の設定を、後の加筆訂正で否定してみせる。そこには、「枠」から「枠組み」へと子どもを見る目を問い直すという後の提唱につながる意識を見ることができる。今後は、同時期の古田の批評活動や「現代児童文学」の動向も視野に入れて、より広がりを持ちつつ、この作品を基軸として追究していくことができるだろう。
著者
伊坂 淳一 佐藤 宗子 鈴木 宏子 安部 朋世
出版者
千葉大学教育学部
雑誌
千葉大学教育学部研究紀要 (ISSN:13482084)
巻号頁・発行日
vol.66, no.2, pp.39-58, 2018-03

[要約] 小学校教員養成教育における国語科の教科内容(教科の専門的事項)は,その根拠となる教育職員免許法及び同施行規則等の関連項目と,実際に小学校で行われる学習内容を規定した学習指導要領の指導事項との間に整合性を欠いているために,一定の共通理解が得られているとは必ずしもいえないのが現状である。学習指導要領の指導事項も学習者の能力の到達目標として記述されているために,国語科の授業者に求められる資質・能力が明確にされているとはいいがたい。結果として,教員養成段階の小学校国語科の内容を扱う,いわゆる教科専門科目が教養主義に傾いてきたことも否めない。本稿は小学校の国語科授業を担う授業者に対する教員養成教育として,教材研究や授業づくりの前段階として求められる実践的な資質・能力をどう捉えたらよいかを課題とする。おおまかには,実際の国語科授業で行われる学習の内容や活動を授業者自身が行うことができることであると仮定し,そこから逆算して3領域1事項に関わる42項目を提言するものである。なお,この提言は千葉大学教育学部国語教育講座に所属する,いわゆる教科専門教育科目を担当する教員4名による討議を経た共同研究・共同著作である。
著者
佐藤 宗子
出版者
千葉大学教育学部
雑誌
千葉大学教育学部研究紀要 = Bulletin of the Faculty of Education, Chiba University (ISSN:13482084)
巻号頁・発行日
vol.66, no.2, pp.444-436, 2018-03-01

[要約] 一九六〇年代に偕成社は、異なる趣旨のもと、二つの「日本文学」に関する少年少女向叢書を刊行した。一つは「一人一冊」スタイルの「作家」叢書の体裁を強めた「少年少女現代日本文学全集」であり、先行するあかね書房「少年少女日本文学選集」と対比しつつ既に論じたことがある。それに対し、一九六四年刊行開始の「ジュニア版 日本文学名作選」は、「全集」以上に途中での増刊を繰り返しつつ、七〇年代半ばに六〇巻で完結した。この叢書の構成を編年的に把握しながら、作品中心に題目設定がなされたことによりどのような特徴が生まれたか、「全集」との共通要素からは何が言えるか、体験を交えつつ享受の状況の対照をどのように考察しうるか、といった点の追究を行い、長編収録や特定の作家の浮上、新味を持つ作品群の選定など文学研究者の関与のもと「日本文学」の編成が進められた状況を明らかにした。今後は「世界の文学」との関係や同業他社の同種叢書との対照を行うことで、「日本文学」の体系化、規範化が少年少女向けにどのように進展したか、状況把握を進めることとしたい。
著者
佐藤 宗子 サトウ モトコ Sato Motoko
出版者
千葉大学教育学部
雑誌
千葉大学教育学部研究紀要 (ISSN:13482084)
巻号頁・発行日
vol.56, pp.438-431, 2008-03

これまで戦後の「少女」向け翻訳・再話叢書を検討してきた中からは、行動的な少女造型が浮かび上がってきていた。今回は、その先にどのような結末が予定されているのかをあわせて念頭に置き、戦前の『少女倶楽部』に連載された、佐藤紅緑の「緑の天使」を中心に検討することとした。ディケンズ『オリヴァー・トゥイスト』を原作とするこの翻案に登場する三人の少女、雛子の創造およびお玉(玉子)と雪子の改変された造型を分析することを通して、少女の行動力がハッピー・エンドへの改変をも導いたこと、同時に大団円ではいずれも結婚が報告されていることの意味を考察した。行動する少女の行く末として結婚が予定されることに関しては、戦後の「講談社マスコット文庫」などにも言及し、時代性の中での翻訳者・再話者の意識のあり方について、その可能性と限界とを指摘した。
著者
佐藤 宗子 サトウ モトコ Sato Motoko
出版者
千葉大学教育学部
雑誌
千葉大学教育学部研究紀要 (ISSN:13482084)
巻号頁・発行日
vol.61, pp.510-503, 2013-03

一九六四年から刊行が開始された小学館「少年少女世界の名作文学」は、先行して一九五〇年代に刊行された創元社と講談社の二つの「地域割り」叢書の形式を受け継ぐ形式をとるものであった。しかし、先行二叢書とは内容と外観の双方で、かなり異なる様相となっている。そこで「地域割り」の巻数の割り当て方、収録作品の傾向、訳出の方法等の特徴を検証し、その後、とくに本体にはめ込まれた表紙絵に焦点化しながら、視覚的情報の盛り込まれ方にも目を向けた。その中で、一般文学からの作品収録が多い半面、いわゆる「和文和訳」の方式が多用されることがもたらす弊害が生じていること、表紙を飾るカラーの泰西画群が形成する別種の「教養」が想定されていることなどを明らかにした。また、こうした形態の叢書の出現が、経済成長を背景にして、児童文学が産業として発展していく中で見られる点にも着目した。
著者
佐藤 宗子 サトウ モトコ Sato Motoko
出版者
千葉大学教育学部
雑誌
千葉大学教育学部研究紀要 (ISSN:13482084)
巻号頁・発行日
vol.57, pp.406-398, 2009-03

一九五〇年代から六〇年代にかけて、「少年少女」を冠した叢書が数多く刊行されている状況を概観し、そこに第二次大戦後の日本の文化・社会状況における、「少年少女」が「読書」することへの期待が内在しうることを確認した。とくに創元社刊行の「世界少年少女文学全集」をとりあげ、各巻の付録紙面や関連する版元の雑誌の特集号、第二部の内容見本など、全集本体よりむしろその周囲に注目する中から、「少年少女」が、戦後の状況の中で新たに区切られた「小学校高学年から中学生」の時期として明確に認識されていたこと、「家庭」と「学校」の二つの享受の場が両立して認識されていたこと、発信者側を含めた三者が子ども読者を囲い「読書」への期待を向けていたこと、発信者側が「教養」の「形成」を念頭においていたこと、子ども読者側もそれと連動した「読書」観を抱いていたこと、当時の読書指導との関連があることなどが明らかとなった。