著者
川西 康之 Sharon J. B. HANLEY 田端 一基 中木 良彦 伊藤 俊弘 吉岡 英治 吉田 貴彦 西條 泰明
出版者
日本公衆衛生学会
雑誌
日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
vol.62, no.5, pp.221-231, 2015 (Released:2015-06-25)
参考文献数
45

目的 妊娠中のヨガ(マタニティ・ヨガ)実践の効果について,近年様々な予防的,治療的効果が研究報告されている。それらをランダム化比較対照試験(RCT)に限って系統的に整理した研究報告は認められていない。本研究の目的は,系統的レビューによって,RCT として報告されているマタニティ・ヨガの効果と,その介入内容,介入方法,実践頻度の実態とを明らかにすることを目的とする。方法 文献検索には,米国立医学図書館の医学文献データベース PubMed を用いた。採用基準として,研究デザインが RCT であり,対象者を妊娠中の女性,介入内容をヨガの実践とする論文を採用した。結果 結果54編が検索され,このうち採用基準に合致した8研究10編を対象とした。健常妊婦を対象とした 4 研究において,その効果を報告した項目は,分娩時の疼痛・快適さ,分娩時間,妊娠中のストレス,不安,抑うつ,妊娠関連ストレス,QOL(生活の質),対人関係の一部であった。うつ状態の妊婦を対象とした 2 研究では,抑うつ,不安,怒り,足の痛み,背部痛などが改善するとの報告と,抑うつ,不安,怒りなどの改善は対照群と同等とするものがあった。肥満や高齢等のハイリスク妊婦を対象とした 1 研究では,妊娠高血圧症候群,妊娠糖尿病,子宮内胎児発育遅延が有意に少なく,ストレスも減少していた。腰痛妊婦を対象とした 1 研究では,腰の痛みの自覚が改善していた。介入内容・介入方法・実践頻度において,介入内容は,抑うつの妊婦を対象とした 2 研究が身体姿勢のみであったのに対し,他の 6 研究では身体姿勢に加え呼吸法と瞑想が行われていた。介入方法は,講習のみのものと,自宅自習を併用するものとがあった。実践頻度は,報告によって様々であった。結論 マタニティ・ヨガにより,妊婦の腰痛が改善する可能性が示唆された。他に精神的症状(ストレス,抑うつ,不安など),身体的症状(分娩時疼痛など),周産期的予後(産科的合併症,分娩時間など)などが改善する可能性も示唆されていたが,今後もさらなる検証が必要と考えられた。介入内容・介入方法・実践頻度は研究により異なっており,対象者の特徴や各評価項目に沿った,効果的な介入内容,介入方法,実践頻度を検討する必要がある。今後も,RCT を中心とした研究報告が行われることが期待される。