著者
柿木 重宜 Shigetaka Kakigi
出版者
関西外国語大学・関西外国語大学短期大学部
雑誌
研究論集 = Journal of inquiry and research (ISSN:03881067)
巻号頁・発行日
no.110, pp.1-17, 2019-09

東京帝国大学文科大学言語学科教授藤岡勝二は、日本語系統論、アルタイ諸語の文献学研究以外に、サンスクリット学、国語国字運動、辞書学等、多彩な研究テーマを有していた。しかしながら、彼のローマ字化国語国字運動における役割については、現在まで不明な点が多い。とりわけ、明治38(1905)年に、藤岡が中心になって結成された「ローマ字ひろめ会」は、現存しないため、未だその実態は詳らかにされていない。当時、藤岡は、本会の常務評議員という立場から、ヘボン式ローマ字の理論と実践に尽瘁していた。また、特筆すべき点は、「ローマ字ひろめ会」には、学者、官僚、政治家、軍人、ジャーナリスト等、様々な要職にある人物が数多く参加していたことである。本稿では、当時のローマ字化運動の潮流を概観しながら、藤岡が、ローマ字化国語国字運動において、どのような役割を果したのか、言語政策を包含する社会言語学的観点から考察を試みた。
著者
柿木 重宜 Shigetaka Kakigi
出版者
関西外国語大学・関西外国語大学短期大学部
雑誌
研究論集 = Journal of Inquiry and Research (ISSN:03881067)
巻号頁・発行日
vol.105, pp.1-19, 2017-03

言語学者藤岡勝二は、国語学の泰斗上田萬年から、1905(明治38)年に正式に東京帝国大学文科大学言語学科を託される。爾来、藤岡は、東京帝国大学の言語学科、否、日本の言語学界を、30年近くにわたり、唯一人で牽引して、教育と研究に尽力する。しかしながら、現代の言語学では、藤岡の名は、日本語系統論を唱えた人物として評価されているに過ぎない。このような状況に鑑み、拙著(2013)では、藤岡が実に多彩な研究テーマを有しており、近代「国語」の成立において、きわめて貴重な役割を果したことを論証した。この研究の途上において、彼が、近代の「言語学」の成立においても、深く関わっている事実が判明した。本稿では、藤岡を軸にして、当時の貴重な資料『言語學雑誌』、『新縣居雑記』等を主に利用しながら、「博言学」から「言語学」へと学問の波が転換するとき、どのように「言語学」という学問分野が築き上げられてきたのか考察した。