- 著者
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牛 承彪
Chengbiao Niu
- 出版者
- 関西外国語大学・関西外国語大学短期大学部
- 雑誌
- 研究論集 = Journal of Inquiry and Research (ISSN:03881067)
- 巻号頁・発行日
- vol.94, pp.81-98, 2011-09
5,6月、奈良盆地に藁の大蛇が登場する民俗行事が行われてきたが、これまでは「野神祭り」の範疇に入れて研究し、発生についても綱掛け行事との関連を中心に考えられてきた。本稿では現地調査に基づいて藁の大蛇行事の構造・信仰対象の性格を考察し、先学の研究を踏まえながら藁の大蛇行事に含まれる諸要素を整理・検討した。行事は予め豊作祈願・災厄駆除の目的で行われたものであるが、信仰対象は祟り神的一面を持ち、それによって行事に特異性を呈するようになる。また信仰対象を顕在化し、その生態を演じることから芸能的性格も帯びる。藁の大蛇と共通的要素を持つ近隣地域の信仰や行事と比較分析し、さらに日本全国の雨乞い習俗と比較しながら、その発生・展開過程において、不定期の行事から定期的行事へと定着する可能性を提示した。最後にはこれまで日本の研究者が確認できなかった中国における藁の龍蛇行事を取り上げ、比較研究の将来性を展望した。