著者
緒方 しらべ Shirabe Ogata
出版者
国立民族学博物館
雑誌
国立民族学博物館研究報告 = Bulletin of the National Museum of Ethnology (ISSN:0385180X)
巻号頁・発行日
vol.40, no.4, pp.547-618, 2016-03-31

本稿の目的は,ナイジェリア連邦共和国の都市イレ・イフェの「アーティスト」であるコラウォレ・オラインカという個人をおもな事例とし,彼が「アーティスト」としてどのように生きているのかを,ナイジェリアの歴史的・社会的コンテクストに位置づけて明らかにすることを通して,アフリカにおける「アート」のあり方について考察することである。これまで,人類学は非西洋における芸術/ 美術/ モノの意味や社会的機能を明らかにしてきた。また,西洋と非西洋の不均衡な力関係を乗り越えようとする展示の試みも行ってきた。ところが,作品のつくり手である「アーティスト」が,地域社会,そして西洋近代のアートワールドという異なるふたつの要素と関わり合うなかで,そうしたつくり手の視点に注目して当該地域における「アート」が論じられることはほとんどなかった。これに対して本稿は,オラインカという個人のつくり手の生活世界とライフヒストリー,作品制作や販売のプロセスを分析し,考察することによって,彼が地域社会やアートワールドと関わりながら生きている様を明らかにしていく。