著者
西本 美紗 田中 友規 高橋 競 Suthutvoravut Unyaporn 藤崎 万裕 吉澤 裕世 飯島 勝矢
出版者
一般社団法人 日本老年医学会
雑誌
日本老年医学会雑誌 (ISSN:03009173)
巻号頁・発行日
vol.57, no.3, pp.273-281, 2020-07-25 (Released:2020-09-04)
参考文献数
22
被引用文献数
6

目的:近年,老化に伴う口腔機能の低下(オーラルフレイル)が低栄養や心身の機能低下に繋がることが注目されている.本研究は,オーラルフレイルが栄養摂取のみならず主観的な食事の満足感にも関連するという仮説の下,オーラルフレイルと食事の満足感の関連を明らかにすることを目的とした.方法:対象は千葉県柏市在住高齢者におけるコホート研究2016年度追跡調査参加者のうち,認知機能障害が無く主要変数に欠損値の無い者とした.食事の満足感は食事のおいしさ,食事の楽しさ,食事量,口腔関連指標は残存歯数とオーラルフレイルを評価した.調整変数は年齢,性別,BMI,居住形態,抑うつ傾向,義歯の使用状況,慢性疾患既往歴とし,ロジスティック回帰分析を用いオッズ比を算出した.結果:対象者940名(平均年齢76.3±5.1歳;男性53%)のうち,食事の味を「とてもおいしい,おいしい」と回答した者は71%,食事を「楽しい」と回答した者は96%,食事量を「多い,やや多い」と回答した者は23%,「ふつう」と回答した者は63%であった.平均残存歯数は20.8±8.5本であり,残存歯数20本以上/未満の間で食事の満足感に有意差は認められなかった.一方,オーラルフレイル該当者8.4%は,非該当者に比べて食事を「とてもおいしい,おいしい」と回答した者(OR 0.49,95%CI 0.29~0.83),食事量を「多い,やや多い」「ふつう」と回答した者(OR 0.36,95%CI 0.15~0.84;OR 0.44,95%CI 0.22~0.85)が有意に少なかった.結論:オーラルフレイルは食事の満足感に関連することが明らかになった.また,その関連性は残存歯の多少のみでは認められず,高齢者の充実した食事を支えるためには口腔機能全般の維持・向上が必要であることが示唆された.