著者
TAKIGUCHI Ryo
出版者
北海道大学大学院文学研究科北方研究教育センター = Center for Northern Humanities, Graduate School of Letters, Hokkaido University
雑誌
北方人文研究 = Journal of the Center for Northern Humanities (ISSN:1882773X)
巻号頁・発行日
vol.6, pp.167-175, 2013-03-31

本論は、社会主義の記憶をめぐる個人の「語り」が有する資料的価値の検討を目的とし、インタビュー・データを通じて社会主義体制下の市民生活の一側面を明らかにする。近年の社会主義研究では、公的な史料ではとらえきれない社会主義体制下の市民生活の実態を明らかにする資料として、個人の経験や記憶の領域が注目されている。本論では、社会主義体制下のモンゴルにおいて非合法な個人商(転売)を営んでいた一人の女性のインタビュー・データを検討し、彼女が社会主義体制下の個人商に対する法的・倫理的な弾劾を巧妙に避けながら、創意工夫によって利益を生み出していた実践の具体像を明らかにする。最後に、社会主義体制下の市民生活に働いていた国家の管理が一様なものではなく、状況によって異なる多層的なものでありえたことを結論として提示したい。