著者
山上 俊彦 Toshihiko Yamagami
雑誌
日本福祉大学経済論集
巻号頁・発行日
vol.41, pp.173-200, 2010-09-30

現在の日本において貧困は深刻な社会問題となっている. 1990 年代後半以降, 格差問題が活発に議論されていたが, 焦点は貧困問題へと移行している. 先進諸国において, 従来の社会保障制度は働く貧困層 (ワーキング・プア) の増加に対応できない状況となっている. 貧困問題に真摯に対応することは社会の基盤を構築する上で重要であり, 最低所得を保証するものとして負の所得税やベーシック・インカムが提起されてきた. 欧米の先進諸国では, ワークフェアの一環として, これらを基礎とした税額控除制度が実施されているところである. 福祉国家という概念は, リベラリズムや自然権のみならず, 自由主義思想の影響も受けている. 日本においても社会保障制度を再構築するために制度の哲学的基盤を整備する必要性がある.
著者
山上 俊彦 Toshihiko Yamagami
雑誌
日本福祉大学経済論集
巻号頁・発行日
vol.45, pp.93-119, 2012-09-30

競争的労働市場においては, 賃金は限界生産力に等しくなり, 均等化する. しかし, 現実には産業間, 企業規模間において賃金格差は発生する. 賃金格差を人的資本理論に基づいた観察される個人属性の相違で説明を試みることには限界があり, 同一特性の労働者であっても格差は存在する. そのため, 観察されない個人属性, 効率賃金仮説等で残余部分を説明することが試みられてきたところである. 近年のデータ整備と統計解析手法の発展は, 観察されない個人属性や企業の賃金政策に起因する固定効果が賃金格差に重要な影響を与えていることを示した. 固定効果は労働市場における情報の不完全性といった摩擦に密接に関連していることから, 均衡サーチ・モデルを用いて賃金格差を説明することが試みられている. 代表的なモデルである BM モデルは労働者と企業のそれぞれの同質性と労働者の転職行動を前提として賃金掲示分布を決定するものであり, 応用範囲の極めて広いモデルである.