著者
山上 俊彦 Toshihiko Yamagami
雑誌
日本福祉大学経済論集
巻号頁・発行日
vol.41, pp.173-200, 2010-09-30

現在の日本において貧困は深刻な社会問題となっている. 1990 年代後半以降, 格差問題が活発に議論されていたが, 焦点は貧困問題へと移行している. 先進諸国において, 従来の社会保障制度は働く貧困層 (ワーキング・プア) の増加に対応できない状況となっている. 貧困問題に真摯に対応することは社会の基盤を構築する上で重要であり, 最低所得を保証するものとして負の所得税やベーシック・インカムが提起されてきた. 欧米の先進諸国では, ワークフェアの一環として, これらを基礎とした税額控除制度が実施されているところである. 福祉国家という概念は, リベラリズムや自然権のみならず, 自由主義思想の影響も受けている. 日本においても社会保障制度を再構築するために制度の哲学的基盤を整備する必要性がある.
著者
山上 俊彦
出版者
日本福祉大学福祉社会開発研究所
雑誌
現代と文化 : 日本福祉大学研究紀要 = Journal of Culture in our Time (ISSN:13451758)
巻号頁・発行日
vol.135, pp.1-21, 2017-03-31

北海道庁が2015 年に公表した「科学的手法に基づくヒグマ生息数」はヒグマ生息数が爆発的に増加しているという結果となっている.この計算機実験に基づく推定結果について検討を加えたところ,断片的情報を基にしたシミュレーションであり,生息数の水準の根拠が希薄であること,生息数が安定する環境収容力が考慮されていないといった問題点があること,推定値の幅が広く信頼性の低い推定値であるということが判明した.ここで公表された生息数を基にヒグマの保護管理政策を推進した場合,北海道のヒグマは絶滅への道を辿ることが予想される.北海道のヒグマ保護管理計画は目標と手段の関係が調和していない政策であり,総捕獲数管理は個体数管理と本質的に変わらない補殺一方の政策である.北海道は政策の基本思想を根本から改める必要性がある.
著者
山上 俊彦
出版者
日本福祉大学
雑誌
日本福祉大学経済論集 (ISSN:09156011)
巻号頁・発行日
no.43, pp.127-152, 2011-09-30

2010 年のノーベル経済学賞はサーチ理論の開発と労働市場分析への応用に貢献した Diamond, Mortensen, Passarides 教授に授与された. サーチ理論は摩擦の存在を前提としているため, 労働者の求職行動や企業の求人行動, 賃金決定の分析に有用である. これらにマッチング関数を組み合わせることで UV 曲線の理論的根拠が与えられる. このような均衡失業理論のフレームワークは DMP モデルと呼ばれており, Walras 型労働市場に替る仕組みを提供するものである. DMP モデルは失業構造の解明, 賃金決定方法, 社会的最適条件の在り方, 雇用政策の効果の検証に多くの知見を与えるものであるため, 労働市場分析の標準モデルとなっている.
著者
山上 俊彦
出版者
日本福祉大学福祉社会開発研究所
雑誌
現代と文化 : 日本福祉大学研究紀要 (ISSN:13451758)
巻号頁・発行日
no.135, pp.1-21, 2017-03

北海道庁が2015 年に公表した「科学的手法に基づくヒグマ生息数」はヒグマ生息数が爆発的に増加しているという結果となっている.この計算機実験に基づく推定結果について検討を加えたところ,断片的情報を基にしたシミュレーションであり,生息数の水準の根拠が希薄であること,生息数が安定する環境収容力が考慮されていないといった問題点があること,推定値の幅が広く信頼性の低い推定値であるということが判明した.ここで公表された生息数を基にヒグマの保護管理政策を推進した場合,北海道のヒグマは絶滅への道を辿ることが予想される.北海道のヒグマ保護管理計画は目標と手段の関係が調和していない政策であり,総捕獲数管理は個体数管理と本質的に変わらない補殺一方の政策である.北海道は政策の基本思想を根本から改める必要性がある.
著者
山上 俊彦
出版者
日本福祉大学経済学会
雑誌
日本福祉大学経済論集 = The journal of economic studies (ISSN:09156011)
巻号頁・発行日
no.55, pp.1-32, 2017-09

雇用調整助成金は景気後退時の失業発生を未然に防ぐために, 休業等の一時的雇用調整を実施した企業に賃金(休業手当等) の一部を補助する制度である. これは失業手当の替りに短時間労働への補助金を支給して雇用関係を維持するSTWA の一種であると考えられる. この制度が失業率をどの程度低下させるかについては従前より議論があったところである. しかしながら, 政策効果を評価する理論や実証分析手法が確立していなかったために, 評価が難しかった. そのため, 失業を未然に防いでいるという主張がなされる一方で, 正社員の囲い込みを助長する, さらには産業構造の転換を遅らせるという批判がなされてきた. 本論では海外も含めた制度の概要, これまでの研究の概観を行うとともに, サーチ・モデルであるMP version を用いて雇用調整助成金の意義と限界を明らかにする. その結果, 雇用調整助成金は雇用保護立法と補完的であること, 正社員の労働時間を柔軟化させて雇用を維持する効果があること, 但し, 効率性低下も少なからずあるということが判明した.
著者
山上 俊彦
出版者
日本福祉大学経済学会
雑誌
日本福祉大学経済論集 = JOURNAL OF ECONOMIC STUDIES, Nihon Fukushi University (ISSN:09156011)
巻号頁・発行日
no.62, pp.1-12, 2021-03-31

雇用調整助成金の 失業回避効果に つ い て サ ー チ 理論に 基づ く MPversion を 用い て calibrationと シ ミ ュ レ ー シ ョ ン を 行っ た . 企業が 一時休業を 選択す る の は 休業手当の う ち 再雇用の た め の 権利価格で あ る オ プ シ ョ ン ・ バ リ ュ ー と 解雇費用を 除い た 部分が 補助さ れ る 場合で あ る . そ の た め 雇用調整助成金の 補助率は 休業手当の 7 割~9 割が 必要で あ る こ と , 雇用調整助成金は 雇用保護立法と補完的関係が あ る こ と , 景気が 悪化す る と 必ず し も 必要な 助成率は 高く な ら な い こ と が 示さ れ る .雇用調整助成金に は 最大で 失業率 1~2%ポ イ ン ト 程度の 失業回避効果が あ る こ と が 示さ れ る . 但し 社会的損失も 発生す る 可能性が あ る た め , 実際の 効果は そ れ よ り も 小さ い . ま た , 助成率を 引き上げ る と 効果が 高ま る 訳で は な く , 支給期間内に 生産性が 旧水準に 復帰し な け れ ば 大量の 失業者が発生す る 可能性が 高い .
著者
山上 俊彦
出版者
日本福祉大学
雑誌
日本福祉大学経済論集 = The journal of economic studies (ISSN:09156011)
巻号頁・発行日
no.49, pp.93-119, 2014-09

競争的労働市場においては, 賃金は限界生産力に等しくなり, 均等化する. しかし, 現実には産業間, 企業規模間において賃金格差は発生する. 賃金格差を人的資本理論に基づいた観察される個人属性の相違で説明を試みることには限界があり, 同一特性の労働者であっても格差は存在する. そのため, 観察されない個人属性, 効率賃金仮説等で残余部分を説明することが試みられてきたところである. 近年のデータ整備と統計解析手法の発展は, 観察されない個人属性や企業の賃金政策に起因する固定効果が賃金格差に重要な影響を与えていることを示した. 固定効果は労働市場における情報の不完全性といった摩擦に密接に関連していることから, 均衡サーチ・モデルを用いて賃金格差を説明することが試みられている. 代表的なモデルである BM モデルは労働者と企業のそれぞれの同質性と労働者の転職行動を前提として賃金掲示分布を決定するものであり, 応用範囲の極めて広いモデルである.
著者
山上 俊彦 Toshihiko Yamagami
雑誌
日本福祉大学経済論集
巻号頁・発行日
vol.45, pp.93-119, 2012-09-30

競争的労働市場においては, 賃金は限界生産力に等しくなり, 均等化する. しかし, 現実には産業間, 企業規模間において賃金格差は発生する. 賃金格差を人的資本理論に基づいた観察される個人属性の相違で説明を試みることには限界があり, 同一特性の労働者であっても格差は存在する. そのため, 観察されない個人属性, 効率賃金仮説等で残余部分を説明することが試みられてきたところである. 近年のデータ整備と統計解析手法の発展は, 観察されない個人属性や企業の賃金政策に起因する固定効果が賃金格差に重要な影響を与えていることを示した. 固定効果は労働市場における情報の不完全性といった摩擦に密接に関連していることから, 均衡サーチ・モデルを用いて賃金格差を説明することが試みられている. 代表的なモデルである BM モデルは労働者と企業のそれぞれの同質性と労働者の転職行動を前提として賃金掲示分布を決定するものであり, 応用範囲の極めて広いモデルである.
著者
山上 俊彦
出版者
一般社団法人電子情報通信学会
雑誌
電子情報通信学会技術研究報告. OIS, オフィスインフォメーションシステム (ISSN:09135685)
巻号頁・発行日
vol.102, no.46, pp.7-12, 2002-05-07

Microsoft Wordによる電子情報通信学会技術研究報告形式のテンプレートファイルです.携帯電話インターネットユーザが5000万人を越え、オフィス情報システムにおいても、さまざまな異なるクライアントに対応できるシステム設計が求められている.最近の携帯電話インターネットの標準化動向、機器独立指向システムに関するW3Cでの動きを解説する。機器独立なオフィス情報設計に向けての課題と、クライアント側の進歩の方向性について論ずる.
著者
山上 俊彦
出版者
日本福祉大学
雑誌
日本福祉大学経済論集 (ISSN:09156011)
巻号頁・発行日
no.41, pp.173-200, 2010-09-30

現在の日本において貧困は深刻な社会問題となっている. 1990 年代後半以降, 格差問題が活発に議論されていたが, 焦点は貧困問題へと移行している. 先進諸国において, 従来の社会保障制度は働く貧困層 (ワーキング・プア) の増加に対応できない状況となっている. 貧困問題に真摯に対応することは社会の基盤を構築する上で重要であり, 最低所得を保証するものとして負の所得税やベーシック・インカムが提起されてきた. 欧米の先進諸国では, ワークフェアの一環として, これらを基礎とした税額控除制度が実施されているところである. 福祉国家という概念は, リベラリズムや自然権のみならず, 自由主義思想の影響も受けている. 日本においても社会保障制度を再構築するために制度の哲学的基盤を整備する必要性がある.