著者
川嶋 舟 福本 瑠衣 内山 秀彦 Schu Kawashima Fukumoto Rui Uchiyama Hidehiko
出版者
東京農業大学
雑誌
東京農業大学農学集報 (ISSN:03759202)
巻号頁・発行日
vol.58, no.3, pp.159-164, 2013-12

馬は使役動物として人の生活において重要な役割を担ってきた。近年では動物介在療法へも応用を広げ,人と馬との新たな関係を構築しつつある。しかしながら,馬の認知能力については,科学的な研究不足から長い間正しい理解がされずにいた。馬の認知能力を理解することは,飼育方法・訓練の効率化,飼育環境の適切な改良,そして馬を用いた福祉的活動の発展といった応用につながると考えられる。そこで本研究は,馬の認知能力の中でも,特に人の認識状況下における聴覚および視覚情報認知の関係性を明らかにし,馬と人との関係性について考察することを目的とした。十分にトレーニングされた馬において,管理で用いられる個体の呼称や指示に関する音声刺激を提示し,馬の行動を観察,得点化した。このとき実験補助者,馬の管理者,既知の人物,未知の人物の音声刺激に対する得点の比較を行った。得られたデータから,耳の動き,目線,接近行動に有意な点数の違いがみられた。耳の動きは,未知の者と比較したとき,有意に実験補助者ならびに馬管理者の音声刺激に対する点数が高く注意を向けていた。また,目線は既知の者より未知の者が有意に高い点数となり未知のものを注視した。さらに人に対する接近行動は,未知の者と比べ管理者や既知の者の音声刺激に対し有意に近い位置を示した。これらの結果から,馬は聴覚,視覚によって人ならびに状況を認知し,人物を弁別と記憶をしていることが示唆された。またその認知過程には第一に聴覚情報を受容し,特に未知の者など認識がなく情報の一致性がない場合,視覚情報を用いてこの統合を行い,行動に移行すると考えられた。これらのことは,馬との相互関係において,積極的に声をかけることが動物介在療法など様々な活動下での対象者の認識を強め,あるいは信頼関係という領域を築く上で極めて重要であると考えられる。
著者
川嶋 舟 上田 毅 物江 貞雄 内山 秀彦 Schu Kawashima Ueda Tsuyoshi Monoe Sadao Uchiyama Hidehiko
出版者
東京農業大学
雑誌
東京農業大学農学集報 (ISSN:03759202)
巻号頁・発行日
vol.58, no.1, pp.1-5, 2013-06

平成23(2011)年3月に発生した東日本大震災は,東北地方太平洋岸に大きな被害をもたらした。被災地の一つである福島県浜通り地方は,国指定重要無形文化財にも指定されている相馬野馬追が行われることから,多くの馬が個別に飼養されている地域でもあった。これらの馬は相馬野馬追に騎馬武者として参加するためだけに飼養されており,コンパニオンホースと呼ぶことのできる位置づけに飼養されている。この地域は,東日本大震災における津波被害を受けただけでなく,東京電力福島第一原子力発電所事故の影響も受け,事故直後から避難指示が出されその後警戒区域に指定された場所も含まれ,この地域で被災した馬に対する保護支援には様々な障害があった。震災から1年が経過し,この間に行われた支援および聞き取り調査の結果をまとめ,被災直後の馬の様子や被災後の馬の動向について明らかにすることができた。また,通常時において,馬名,所有者名,飼養場所等の情報を一元化しておくことが,緊急時におけるコンパニオンホースとして飼養される馬の保護および支援活動を行う際には有効であると考えられる。