著者
山田 功夫 深尾 良夫 深尾 良夫 浜田 信生 鷹野 澄 笠原 順三 須田 直樹 WALKER D.A. 浜田 信夫 山田 功夫
出版者
名古屋大学
雑誌
国際学術研究
巻号頁・発行日
1992

我々はPATS(ポンペイ農業商業学校)や現地邦人の方々の協力を得て,平成5年3月ミクロネシア連邦ポンペイに地震観測点を開設することができた.平成4年9月の現地調査以後,手紙とファクスのみでのやりとりのため,現地での準備の進行に不安があったが,現地邦人の方々のご協力もあって,我々は計画を予定どうり進めることができた.その後,地震観測の開設は順調に進んだが,我々の最初の計画とは異なり,電話が使えない(最初の現地調査の際,電話の会社を訪ね相談したとき,「現在ポンペイ全体の電話線の敷設計画が進んでおり,間もなくPATSにもとどく.平成5年3月であれば間違いなくPATSで電話を使うことができる」とのことであったが,工事が伸びた).このため最初に予定した,電話回線を使った,観測システムの管理やデータ収集はできなくなった.近い内に電話回線を利用することもできるようになるであろうことから,観測システムの予定した機能はそのままにし,現地集録の機能をつけ加えた.そして,システム管理については,我々が予定より回数を多く現地を訪問することでカバーすることにして観測はスターとした.実際に観測初期には色々な問題が生じることは予想されるので,その方が効率的でもあった.現地での記録は130MバイトのMOディスクに集録することにした.MOディスクの交換は非常に簡単なので,2週間に1度交換し,郵送してもらうことにした.この記録の交換はPATSの先生にお願いすることができた.実際に電話回線がこの学校まで伸び,利用できるようになったのは平成6年1月のことであった.よって,これ以後は最初の予定通り,国際電話を使った地震観測システムが稼働した.観測を進める中で,いくつかの問題が生じた.(1)この国ではまだ停電が多いので無停電装置(通電時にバッテリ-に充電しておき,短い時間であればこれでバックアップする)を準備したが,バックアップ時ははもちろん,充電時にもノイズが出ているようで,我々のシステムを設置した付近のラジオにノイズが入るので止めざるを得なかった.(2)地震観測では精度の良い時刻を必要とする.我々はOMEGA航法システムの電波を使った時計を用意したが,観測システム内のコンピューター等のノイズで受信状態が悪く,時々十分な精度を保つことができなかった.結局,GPS衛星航法システムを使った時計を開発し,これを使った.このような改良を加えることによって,PATSでは良好な観測ができるようになった.この観測点は大変興味深い場所にある.北側のマリアナ諸島に起こる地震は,地球上で最古のプレート(太平洋プレートの西の端で1億6千万年前)だけを伝播してきて観測される.一方,ソロモン諸島など南から来る地震波はオントンジャワ海台と言われる,海底の溶岩台地からなる厚い地殻地帯を通ってくる.両方とも地震波はほとんどその地域だけを通ってくるので,地殻構造を求めるにも,複雑な手続きはいらない.これまでにも,これらの地域での地殻構造に関する研究は断片的にはあるが,上部マントルに至るまでの総合的な研究はまだ無い.マリアナ地域で起こった地震で,PATSで観測された地震の長周期表面波(レーリー波)の群速度を求めると,非常に速く,Michell and Yu(1980)が求めた1億年以上のプレートでの表面波の速度よりさらに速い.このレーリー波の群速度の分散曲線から地下構造を求めてみると,ここには100kmを越える厚さのプレートが存在することが分かった.一方,オントンジャワ海台を通るレーリー波の群速度は,異常に遅く,特に短周期側で顕著である.この分散曲線から地下構造を求めると,海洋にも関わらず30kmもの厚い地殻が存在することになる.これは,前に述べたように,広大な海底の溶岩台地の広がりを示唆する.同様のことは地震のP波初動の到着時間の標準走時からの差にも現れている.すなわち,マリアナ海盆を伝播したP波初動は標準走時より3〜4秒速く,オントンジャワ海台をとおる波は2〜3秒遅い.この観測では沢山の地震が記録されており,解析はまだ十分に進んでいない.ここに示した結果は,ごく一部の解析結果であり,さらに詳しい解析を進める予定である.