著者
田仲 一成 WU Zhen
出版者
財団法人東洋文庫
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2009

日本の祭祀芸能を中国との対比において研究することを目的とし、先に提出した実施計画に基づいて、重要な調査地点を順次に訪問し、フィールドワークを実施した。まず2011年5月、(1)高知県吉良川町の御田祭り、次に同年5月から6月にかけて、(2)岐阜県能郷の猿楽、(3)同高山市の春季祭礼、(4)奈良法隆寺の10年1度の聖霊会(行道行列)、(5)奈良春日大社の「呪師走りの翁」(6)大阪住吉大社の御田植神事などを、連続して調査記録した。また、2012年9月には、(7)奈良市豆比古神社の古式翁舞、(8)京都市宇治田原町の三社宮座神事を,同11月には、(9)愛知県東栄町小林の花祭りを調査した。これにより、日本の古代祭祀、中世祭祀、近世祭祀について、広く考察することができた。具体的に言えば、まず古代祭祀については、(4)法隆寺の聖霊会により、古代に大陸から日本に渡来した伎楽系の仮面の実態を考察し、さらに(5)翁芸の源流とみなされている法呪師による「呪師走りの翁」を考察して、日本芸能の基礎となる部分の理解を深めた。次に中世芸能については、(2)能の原始形態を伝える岐阜県能郷の猿楽、(1)夢幻能の初期形態を示す吉良川の小林の幽霊、(7)翁の中世的発展を示す奈良豆比古神社の3人翁舞、さらに(8)中世宮座の原初形態を示す宇治田原町の神事などを考察できた。さらに近世祭祀としては、岐阜高山市の操り人形の精巧な演出を考察し、近世町衆の祭祀芸能の典型を考察できた。これにより、2009年11月に研究を開始して以来、古代祭祀、中世祭祀、近世祭祀のすべてにわたり、展望を得た。今後は、これを踏まえて、(1)古代祭祀における大陸芸能の影響、(2)中世祭祀における宮座組織と中国の宗族組織との異同比較、(3)近世祭祀における市民社会の成熟度の目中比較などの課題にとりくみたい。また、日中両国語による報告書の刊行を計画している。