著者
澤井 一彰
出版者
財団法人東洋文庫
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2009

最終年度である平成23年度は、これまでの研究成果の公表と、今後の新たな研究のための史料調査が活動の中心となった。共著としては、2012年3月に山川出版社から出版予定の『オスマン帝国史の諸相』に、博士論文の一部である「穀物問題に見る16世紀後半のオスマン朝と地中海世界」が採録された。同論文は、16世紀後半の地中海世界における物資流通と国際関係のかかわりを、穀物問題に焦点をしぼることによって解明することを目指したものである。国内における研究発表としては、拡大地中海史研究会において、「16世紀後半の東地中海世界における「穀物争奪戦」-エマール=ブローデル・テーゼの再検討-」と題する報告を行った。博士論文の一部でもある同報告は、モーリス・エマールとフェルナン・ブローデルによって主張されてきたテーゼを再検討したものである。また、羽田正東京大学教授を代表とする基盤研究(S)「ユーラシアの近代と新しい世界史叙述」において、「16世紀後半のオスマン朝における飲酒行為をめぐる諸問題-多元的社会における「価値」を考える-」と「イスタンブルへの穀物供給に見る「伝統」と「近代」」と題した報告を行った。さらに、山川出版社から刊行されている『歴史と地理世界史の研究』には、イスタンブルの歴史を様々な著作を挙げつつ紹介する「イスタンブル歴史案内」が掲載された。今後の研究に向けての史料調査では、2011年8月14日から9月2日までトルコ(イスタンブル)とアイルランド(ダブリン)を、2012年1月15日から2月3日まではトルコ(イスタンブル)とイギリス(ロンドン)をそれぞれ訪れ、現地の文書館や図書館において関連史料の調査収集を行った。以上が、平成23年度の研究実績の概要である.
著者
田仲 一成 WU Zhen
出版者
財団法人東洋文庫
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2009

日本の祭祀芸能を中国との対比において研究することを目的とし、先に提出した実施計画に基づいて、重要な調査地点を順次に訪問し、フィールドワークを実施した。まず2011年5月、(1)高知県吉良川町の御田祭り、次に同年5月から6月にかけて、(2)岐阜県能郷の猿楽、(3)同高山市の春季祭礼、(4)奈良法隆寺の10年1度の聖霊会(行道行列)、(5)奈良春日大社の「呪師走りの翁」(6)大阪住吉大社の御田植神事などを、連続して調査記録した。また、2012年9月には、(7)奈良市豆比古神社の古式翁舞、(8)京都市宇治田原町の三社宮座神事を,同11月には、(9)愛知県東栄町小林の花祭りを調査した。これにより、日本の古代祭祀、中世祭祀、近世祭祀について、広く考察することができた。具体的に言えば、まず古代祭祀については、(4)法隆寺の聖霊会により、古代に大陸から日本に渡来した伎楽系の仮面の実態を考察し、さらに(5)翁芸の源流とみなされている法呪師による「呪師走りの翁」を考察して、日本芸能の基礎となる部分の理解を深めた。次に中世芸能については、(2)能の原始形態を伝える岐阜県能郷の猿楽、(1)夢幻能の初期形態を示す吉良川の小林の幽霊、(7)翁の中世的発展を示す奈良豆比古神社の3人翁舞、さらに(8)中世宮座の原初形態を示す宇治田原町の神事などを考察できた。さらに近世祭祀としては、岐阜高山市の操り人形の精巧な演出を考察し、近世町衆の祭祀芸能の典型を考察できた。これにより、2009年11月に研究を開始して以来、古代祭祀、中世祭祀、近世祭祀のすべてにわたり、展望を得た。今後は、これを踏まえて、(1)古代祭祀における大陸芸能の影響、(2)中世祭祀における宮座組織と中国の宗族組織との異同比較、(3)近世祭祀における市民社会の成熟度の目中比較などの課題にとりくみたい。また、日中両国語による報告書の刊行を計画している。
著者
土肥 義和 岡野 誠 片山 章雄
出版者
財団法人東洋文庫
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2010

標記研究課題に対する研究成果は、次の(1)~(4)の通りである。 (1)ロシア科学アカデミー東洋学研究所サンクト・ペテルブルグ分所所蔵の胡語文献の裏面 に書かれた漢語文献の目録原稿を作成し、そのうちの非仏教文献の録文を公表した。(2)旅順 博物館所蔵の『唐律』『律疏』断片のカラー写真を学界に提供し、既発表論文のいくつかの論点 をより正確にした。また、旅順博物館所蔵吐魯番出土の唐代の田制等社会経済文書と墓葬再利用文書の文献・彩画両面資料とを実見し、それらと龍谷大学所蔵の大谷文書等との綴合を示した。さらに、綴合によって復原された唐代の官文書の史料的位置づけを行った。(3)敦煌仏教との比較資料として、開封市の繁塔に見える北宋初期の仏教石刻資料を増補し、その全体像を 提示した。(4)胡語文献の研究と関わって洛陽のソグド人「安菩夫妻」の墓と墓誌を調査し、 その成果を公表した。