著者
野津 翔太 野村 英子 Walsh Catherine Eistrup Christian
出版者
日本地球惑星科学連合
雑誌
JpGU-AGU Joint Meeting 2017
巻号頁・発行日
2017-03-10

原始惑星系円盤(以下、‘円盤’) 内では凍結温度の違いにより、分子種(e.g., H2O, CO, HCN, CO2)ごとにスノーラインの位置は異なると考えられる。その為、円盤ガス・ダスト中のC/O比は、中心星からの距離に応じて変化すると考えられる。例えばH2Oスノーラインの外側では、多くの酸素がH2Oの形でダスト表面に凍結する一方、炭素の多くはCOなどの形で円盤ガス中に留まるので、ガス中でC/O比が大きくなる。また、近年太陽系外ガス惑星大気のC/O比が見積もられ始めているが、観測されたホットジュピターの中にはC/O~1 のガス大気を持ち、円盤外側での形成・大気獲得を示唆するものも存在する (e.g, Madhusudhan et al. 2011)。この様に円盤と惑星大気のC/O比を比較する事で、惑星大気獲得・移動の過程に制限を加えられる事が検討されている (e.g., Oberg et al. 2011, Eistrup et al. 2016)。これまで我々は、円盤の化学反応ネットワーク計算と放射輸送計算の手法を用いて、円盤内のスノーライン位置とC/O 比の分布や、それらを同定するのに適した分子輝線(赤外線~サブミリ波)の調査を進めてきた (e.g., Notsu et al. 2016, ApJ, 827, 113; 2017, ApJ, 836, 118)。今回我々は、まずGuillot et al. (2010, A&A, 520, A27) の手法を用いて、中心星からの照射で決まる系外ガス惑星大気の放射平衡な物理構造を計算した。その上で、系外惑星大気の化学構造と惑星形成環境の関係を探るべく、中心星からの距離、およびC, O, Nの元素組成比などを様々に変えた場合について、系外ガス惑星大気の化学平衡計算を行っている。その結果、大気温度が減少するとCH4の組成が増加する傾向が見えた。また同様の大気物理構造の場合でも、C/O比が太陽の値に比べて高くなると、大気下部でCH4, HCN などの組成が増加する事などが見えてきた。講演では、現状の計算結果を紹介した上で、観測で得られた系外ガス惑星大気の化学構造との関連についても簡単に議論する予定である。
著者
野津 翔太 野村 英子 本田 充彦 廣田 朋也 秋山 永治 Walsh Catherine Millar T.J.
出版者
日本地球惑星科学連合
雑誌
JpGU-AGU Joint Meeting 2017
巻号頁・発行日
2017-03-10

原始惑星系円盤(以後、"円盤")において、中心星近傍では高温のためH2Oはダスト表面から脱離し気体となるが、遠方では低温のためダスト表面に凍結する。この境界がH2Oスノーラインであり、ダストの合体成長で惑星を作る際、H2Oスノーラインの内側では地球型の岩石惑星が形成される。一方外側ではダストの総量が増加する。このため重力で周りのガスを大量に集める事が可能となり、木星型のガス惑星が形成される (Hayashi et al. 1981, 1985)。そのためH2Oスノーラインを観測的に同定する事は、微惑星・惑星形成過程や、地球上の水の起源を考える上で重要である。太陽質量程度の前主系列星(T Tauri星)周りの円盤の場合、円盤赤道面におけるH2Oスノーラインは、中心星から数auの位置に存在する。しかし、撮像観測によってこの様な円盤のH2Oスノーラインを検出する事は、空間分解能が足りない為に困難である。一方で円盤はほぼケプラー回転している為、円盤から放射される輝線はドップラーシフトを受け広がっている。この輝線のプロファイル形状の解析から、輝線放射領域の中⼼星からの距離の情報が得られる。そこで本研究(Notsu et al. 2016, 2017)では、数値計算の結果に基づき、H2O輝線プロファイルの観測から円盤内のH2O分布、特にH2Oスノーラインを同定する方法を提案する。具体的にはまず円盤の化学反応ネットワーク計算を行い、H2Oの存在量とその分布を調べた。この際、中心星にT Tauri星 (Tstar~4,000K, Mstar~0.5Msun) とHerbig Ae星 (Tstar~10,000K, Mstar~2.5Msun) を考えた2つの円盤物理構造モデルを用いた。するとH2Oスノーラインの内側の円盤赤道面付近だけでなく、円盤外側の上層部高温領域や光解離領域でもH2Oガスの存在量が多い事が分かった。またその計算結果を元に、円盤から放出されるH2O輝線のプロファイルを多数の輝線について計算した。その結果、アインシュタインA係数(放射係数)が小さく(~10−6−10−3 s−1)、エネルギーが比較的高い(~1000K) 輝線のプロファイルを高分散分光観測で調べる事で、H2Oスノーラインを同定できる可能性がある事が分かった。そして、この様な特徴を持つH2O輝線が、中間赤外線からサブミリ波までの幅広い波長帯に多数存在し、その強度は波長が短い程大きい事が分かった。更に、Herbig Ae円盤の方がT Tauri円盤に比べ中心星の温度が高くH2Oスノーラインの位置が中心星から遠い事から、スノーラインを同定しうるH2O輝線の強度が大きくなる事が分かった。本発表ではこれらの解析結果を紹介した上で、今後のALMA観測でのH2Oスノーラインの同定可能性について議論を行う。また、最近新たにALMA band 5 領域のH2O輝線の計算も行っており、その結果も併せて紹介する予定である。参考文献:Notsu, S., et al. 2016, ApJ, 827, 113 Notsu, S., et al. 2017, ApJ, 836, 118