著者
坂井 南美 野村 英子 花輪 知幸 大橋 聡史 奥住 聡
出版者
国立研究開発法人理化学研究所
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2020-04-01

特に若い原始星L1527について、化学診断を通したエンベロープ・円盤構造の同定、円盤のワープ構造の発見など、独自の手法による成果を挙げてきた。このような初期円盤構造は、原始惑星系円盤で捉えられているリングやスパイラル構造、また、系外惑星における軌道面の多様性の起源の端緒を捉えたものであり、より多くの初期円盤の観測でその一般性を検証することが求められる。数auスケールでの円盤構造の高分解能観測によりこの課題に応えるとともに、多波長観測により、ダスト成長を円盤構造形成過程との関係から解明する。これらを通し、"原始星進化の過程で、惑星形成がいつ始まるか"という問題を提起し、その大要を明らかにする。
著者
野津 翔太 野村 英子 Walsh Catherine Eistrup Christian
出版者
日本地球惑星科学連合
雑誌
JpGU-AGU Joint Meeting 2017
巻号頁・発行日
2017-03-10

原始惑星系円盤(以下、‘円盤’) 内では凍結温度の違いにより、分子種(e.g., H2O, CO, HCN, CO2)ごとにスノーラインの位置は異なると考えられる。その為、円盤ガス・ダスト中のC/O比は、中心星からの距離に応じて変化すると考えられる。例えばH2Oスノーラインの外側では、多くの酸素がH2Oの形でダスト表面に凍結する一方、炭素の多くはCOなどの形で円盤ガス中に留まるので、ガス中でC/O比が大きくなる。また、近年太陽系外ガス惑星大気のC/O比が見積もられ始めているが、観測されたホットジュピターの中にはC/O~1 のガス大気を持ち、円盤外側での形成・大気獲得を示唆するものも存在する (e.g, Madhusudhan et al. 2011)。この様に円盤と惑星大気のC/O比を比較する事で、惑星大気獲得・移動の過程に制限を加えられる事が検討されている (e.g., Oberg et al. 2011, Eistrup et al. 2016)。これまで我々は、円盤の化学反応ネットワーク計算と放射輸送計算の手法を用いて、円盤内のスノーライン位置とC/O 比の分布や、それらを同定するのに適した分子輝線(赤外線~サブミリ波)の調査を進めてきた (e.g., Notsu et al. 2016, ApJ, 827, 113; 2017, ApJ, 836, 118)。今回我々は、まずGuillot et al. (2010, A&A, 520, A27) の手法を用いて、中心星からの照射で決まる系外ガス惑星大気の放射平衡な物理構造を計算した。その上で、系外惑星大気の化学構造と惑星形成環境の関係を探るべく、中心星からの距離、およびC, O, Nの元素組成比などを様々に変えた場合について、系外ガス惑星大気の化学平衡計算を行っている。その結果、大気温度が減少するとCH4の組成が増加する傾向が見えた。また同様の大気物理構造の場合でも、C/O比が太陽の値に比べて高くなると、大気下部でCH4, HCN などの組成が増加する事などが見えてきた。講演では、現状の計算結果を紹介した上で、観測で得られた系外ガス惑星大気の化学構造との関連についても簡単に議論する予定である。
著者
野津 翔太 野村 英子 本田 充彦 廣田 朋也 秋山 永治 Walsh Catherine Millar T.J.
出版者
日本地球惑星科学連合
雑誌
JpGU-AGU Joint Meeting 2017
巻号頁・発行日
2017-03-10

原始惑星系円盤(以後、"円盤")において、中心星近傍では高温のためH2Oはダスト表面から脱離し気体となるが、遠方では低温のためダスト表面に凍結する。この境界がH2Oスノーラインであり、ダストの合体成長で惑星を作る際、H2Oスノーラインの内側では地球型の岩石惑星が形成される。一方外側ではダストの総量が増加する。このため重力で周りのガスを大量に集める事が可能となり、木星型のガス惑星が形成される (Hayashi et al. 1981, 1985)。そのためH2Oスノーラインを観測的に同定する事は、微惑星・惑星形成過程や、地球上の水の起源を考える上で重要である。太陽質量程度の前主系列星(T Tauri星)周りの円盤の場合、円盤赤道面におけるH2Oスノーラインは、中心星から数auの位置に存在する。しかし、撮像観測によってこの様な円盤のH2Oスノーラインを検出する事は、空間分解能が足りない為に困難である。一方で円盤はほぼケプラー回転している為、円盤から放射される輝線はドップラーシフトを受け広がっている。この輝線のプロファイル形状の解析から、輝線放射領域の中⼼星からの距離の情報が得られる。そこで本研究(Notsu et al. 2016, 2017)では、数値計算の結果に基づき、H2O輝線プロファイルの観測から円盤内のH2O分布、特にH2Oスノーラインを同定する方法を提案する。具体的にはまず円盤の化学反応ネットワーク計算を行い、H2Oの存在量とその分布を調べた。この際、中心星にT Tauri星 (Tstar~4,000K, Mstar~0.5Msun) とHerbig Ae星 (Tstar~10,000K, Mstar~2.5Msun) を考えた2つの円盤物理構造モデルを用いた。するとH2Oスノーラインの内側の円盤赤道面付近だけでなく、円盤外側の上層部高温領域や光解離領域でもH2Oガスの存在量が多い事が分かった。またその計算結果を元に、円盤から放出されるH2O輝線のプロファイルを多数の輝線について計算した。その結果、アインシュタインA係数(放射係数)が小さく(~10−6−10−3 s−1)、エネルギーが比較的高い(~1000K) 輝線のプロファイルを高分散分光観測で調べる事で、H2Oスノーラインを同定できる可能性がある事が分かった。そして、この様な特徴を持つH2O輝線が、中間赤外線からサブミリ波までの幅広い波長帯に多数存在し、その強度は波長が短い程大きい事が分かった。更に、Herbig Ae円盤の方がT Tauri円盤に比べ中心星の温度が高くH2Oスノーラインの位置が中心星から遠い事から、スノーラインを同定しうるH2O輝線の強度が大きくなる事が分かった。本発表ではこれらの解析結果を紹介した上で、今後のALMA観測でのH2Oスノーラインの同定可能性について議論を行う。また、最近新たにALMA band 5 領域のH2O輝線の計算も行っており、その結果も併せて紹介する予定である。参考文献:Notsu, S., et al. 2016, ApJ, 827, 113 Notsu, S., et al. 2017, ApJ, 836, 118
著者
野津 翔太 野村 英子 石本 大貴 本田 充彦
出版者
日本地球惑星科学連合
雑誌
日本地球惑星科学連合2016年大会
巻号頁・発行日
2016-03-10

原始惑星系円盤(以下、"円盤")は、⽐較的単純な分⼦種(e.g., H2O, CO, CO2, HCN)から複雑な有機物(COMs)まで様々な分⼦種を含む。最近ではSpitzer宇宙望遠鏡や、地上の⼤型望遠鏡(e.g., VLT, Keck)による⾚外線分光観測などで、⽐較的単純な分⼦種の様々な輝線が検出され始めている (e.g., Pontoppidan et al. 2010a&b, Mandell et al. 2012)。円盤はほぼケプラー速度で回転しているため、円盤から放射される輝線はドップラーシフトを受け広がっている。この輝線のプロファイル形状の解析から、輝線放射領域の中⼼星からの距離の情報が得られる。これまで我々は、円盤の化学反応ネットワーク計算と放射輸送計算の⼿法を⽤いて、H2O輝線プロファイルの観測から円盤内のH2O分布、特にH2Oスノーラインを同定する可能性を調べてきた。その結果、アインシュタインA係数が⼩さく、励起温度が⾼いH2O輝線を⽤いた⾼分散分光観測を実施する事で、H2Oスノーラインの位置を同定できる可能性が⽰されている(Notsu etal. 2016a, ApJ submitted & 2016b in prep.)。ここで円盤内では凝結温度の違いにより、分⼦種ごとにスノーラインの位置は異なると考えられる。その為、円盤ガス・ダスト中のC/O⽐は、中⼼星からの距離に応じて変化すると考えられる。例えばH2Oスノーラインの外側では、多くの酸素がH2Oの形でダスト表⾯に凍結する⼀⽅、炭素の多くはCOなどの形で円盤ガス中に留まるので、ガス中でC/O⽐が⼤きくなる。また、近年系外惑星⼤気のC/O⽐が測定され始めているが(e.g., Madhusudhan et al. 2014)、円盤と惑星⼤気のC/O⽐を⽐較する事で、惑星形成理論に制限を加えられる事が⽰唆されている(e.g., Oberg et al.2011)。そこで我々は、これまでの化学反応計算を発展させ、円盤ガス・ダスト中のC/O⽐や、⽐較的単純かつ主要な分⼦種(e.g., H2O, CO, CO2, HCN) の組成分布を調べている。同時に放射輸送計算も進め、C/O⽐などを同定するのに適した輝線の調査を進めている。その結果、同じ分⼦種のアインシュタインA係数(放射係数)や励起温度が異なる輝線を使う事で、円盤内の異なる領域のC/O⽐に制限を加えられる事が分かってきた。例えばHCNの場合、3μm帯の輝線では円盤外側、14μm帯の輝線では円盤内側の構造に迫る事が可能である。これは14μm帯の輝線の⽅が3μm帯の輝線と⽐べ、ダストの吸収係数が⼩さく励起温度が低いため、円盤内側のHCNガスが豊富な領域を追う事が出来るからである。本発表ではまずT-Tauri円盤の場合の解析結果を中⼼に報告し、将来の近-中間⾚外線の分光観測 (e.g., TMT/MICHI, SPICA) との関係についても議論する。また時間の許す範囲で、Herbig Ae星の場合の解析結果の報告と議論も⾏う。