著者
野津 翔太 野村 英子 本田 充彦 廣田 朋也 秋山 永治 Walsh Catherine Millar T.J.
出版者
日本地球惑星科学連合
雑誌
JpGU-AGU Joint Meeting 2017
巻号頁・発行日
2017-03-10

原始惑星系円盤(以後、"円盤")において、中心星近傍では高温のためH2Oはダスト表面から脱離し気体となるが、遠方では低温のためダスト表面に凍結する。この境界がH2Oスノーラインであり、ダストの合体成長で惑星を作る際、H2Oスノーラインの内側では地球型の岩石惑星が形成される。一方外側ではダストの総量が増加する。このため重力で周りのガスを大量に集める事が可能となり、木星型のガス惑星が形成される (Hayashi et al. 1981, 1985)。そのためH2Oスノーラインを観測的に同定する事は、微惑星・惑星形成過程や、地球上の水の起源を考える上で重要である。太陽質量程度の前主系列星(T Tauri星)周りの円盤の場合、円盤赤道面におけるH2Oスノーラインは、中心星から数auの位置に存在する。しかし、撮像観測によってこの様な円盤のH2Oスノーラインを検出する事は、空間分解能が足りない為に困難である。一方で円盤はほぼケプラー回転している為、円盤から放射される輝線はドップラーシフトを受け広がっている。この輝線のプロファイル形状の解析から、輝線放射領域の中⼼星からの距離の情報が得られる。そこで本研究(Notsu et al. 2016, 2017)では、数値計算の結果に基づき、H2O輝線プロファイルの観測から円盤内のH2O分布、特にH2Oスノーラインを同定する方法を提案する。具体的にはまず円盤の化学反応ネットワーク計算を行い、H2Oの存在量とその分布を調べた。この際、中心星にT Tauri星 (Tstar~4,000K, Mstar~0.5Msun) とHerbig Ae星 (Tstar~10,000K, Mstar~2.5Msun) を考えた2つの円盤物理構造モデルを用いた。するとH2Oスノーラインの内側の円盤赤道面付近だけでなく、円盤外側の上層部高温領域や光解離領域でもH2Oガスの存在量が多い事が分かった。またその計算結果を元に、円盤から放出されるH2O輝線のプロファイルを多数の輝線について計算した。その結果、アインシュタインA係数(放射係数)が小さく(~10−6−10−3 s−1)、エネルギーが比較的高い(~1000K) 輝線のプロファイルを高分散分光観測で調べる事で、H2Oスノーラインを同定できる可能性がある事が分かった。そして、この様な特徴を持つH2O輝線が、中間赤外線からサブミリ波までの幅広い波長帯に多数存在し、その強度は波長が短い程大きい事が分かった。更に、Herbig Ae円盤の方がT Tauri円盤に比べ中心星の温度が高くH2Oスノーラインの位置が中心星から遠い事から、スノーラインを同定しうるH2O輝線の強度が大きくなる事が分かった。本発表ではこれらの解析結果を紹介した上で、今後のALMA観測でのH2Oスノーラインの同定可能性について議論を行う。また、最近新たにALMA band 5 領域のH2O輝線の計算も行っており、その結果も併せて紹介する予定である。参考文献:Notsu, S., et al. 2016, ApJ, 827, 113 Notsu, S., et al. 2017, ApJ, 836, 118
著者
野津 翔太 野村 英子 石本 大貴 本田 充彦
出版者
日本地球惑星科学連合
雑誌
日本地球惑星科学連合2016年大会
巻号頁・発行日
2016-03-10

原始惑星系円盤(以下、"円盤")は、⽐較的単純な分⼦種(e.g., H2O, CO, CO2, HCN)から複雑な有機物(COMs)まで様々な分⼦種を含む。最近ではSpitzer宇宙望遠鏡や、地上の⼤型望遠鏡(e.g., VLT, Keck)による⾚外線分光観測などで、⽐較的単純な分⼦種の様々な輝線が検出され始めている (e.g., Pontoppidan et al. 2010a&b, Mandell et al. 2012)。円盤はほぼケプラー速度で回転しているため、円盤から放射される輝線はドップラーシフトを受け広がっている。この輝線のプロファイル形状の解析から、輝線放射領域の中⼼星からの距離の情報が得られる。これまで我々は、円盤の化学反応ネットワーク計算と放射輸送計算の⼿法を⽤いて、H2O輝線プロファイルの観測から円盤内のH2O分布、特にH2Oスノーラインを同定する可能性を調べてきた。その結果、アインシュタインA係数が⼩さく、励起温度が⾼いH2O輝線を⽤いた⾼分散分光観測を実施する事で、H2Oスノーラインの位置を同定できる可能性が⽰されている(Notsu etal. 2016a, ApJ submitted & 2016b in prep.)。ここで円盤内では凝結温度の違いにより、分⼦種ごとにスノーラインの位置は異なると考えられる。その為、円盤ガス・ダスト中のC/O⽐は、中⼼星からの距離に応じて変化すると考えられる。例えばH2Oスノーラインの外側では、多くの酸素がH2Oの形でダスト表⾯に凍結する⼀⽅、炭素の多くはCOなどの形で円盤ガス中に留まるので、ガス中でC/O⽐が⼤きくなる。また、近年系外惑星⼤気のC/O⽐が測定され始めているが(e.g., Madhusudhan et al. 2014)、円盤と惑星⼤気のC/O⽐を⽐較する事で、惑星形成理論に制限を加えられる事が⽰唆されている(e.g., Oberg et al.2011)。そこで我々は、これまでの化学反応計算を発展させ、円盤ガス・ダスト中のC/O⽐や、⽐較的単純かつ主要な分⼦種(e.g., H2O, CO, CO2, HCN) の組成分布を調べている。同時に放射輸送計算も進め、C/O⽐などを同定するのに適した輝線の調査を進めている。その結果、同じ分⼦種のアインシュタインA係数(放射係数)や励起温度が異なる輝線を使う事で、円盤内の異なる領域のC/O⽐に制限を加えられる事が分かってきた。例えばHCNの場合、3μm帯の輝線では円盤外側、14μm帯の輝線では円盤内側の構造に迫る事が可能である。これは14μm帯の輝線の⽅が3μm帯の輝線と⽐べ、ダストの吸収係数が⼩さく励起温度が低いため、円盤内側のHCNガスが豊富な領域を追う事が出来るからである。本発表ではまずT-Tauri円盤の場合の解析結果を中⼼に報告し、将来の近-中間⾚外線の分光観測 (e.g., TMT/MICHI, SPICA) との関係についても議論する。また時間の許す範囲で、Herbig Ae星の場合の解析結果の報告と議論も⾏う。