著者
矢野 米雄 YANO Yoneo
出版者
徳島大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1991

我々は外国人向け日本語教育のための漢字辞書として電子漢字辞書“漢字林"と電子漢字熟語辞書“KIDS"の試作を行なった.漢字林は,漢字に意味や発音を継承する部分構造に着目した電子漢字辞書である.従来の漢字データベースは,漢字の構造上の特徴に着目するため,漢字の表意文字としての知識表現は困難である.我々は常用漢字1945文字に対して漢字の意味や発音に継承する部分構造を整理した.これらの部分構造を用いて漢字を表現し,種々の条件検索が可能で,継承する属性に着目した知識検索可能な漢字知識ベースを持つ電子漢字辞書“漢字林"を試作した.漢字林ではキーボード入力によらず直接操作でき,誤操作に対するシステムの助言や漢字候補を絞り込む検索操作に対する前状態への復帰の機能を持つ環境を実現した.さらに漢字の知識の少ないユーザが単純な部分構造から複雑な部分構造をたどり目標の漢字を簡単に検索できる環境を実現した.漢字林はSONY製EWS NWS-3865上に構築した.KIDSは外国人の漢字熟語学習を支援する電子漢字熟語辞書である.漢字熟語を学習する外国人は自分がどの漢字熟語を学ぶ必要があるか理解している場合が多く,また漢字熟語を広く浅く学ぶのではなく,必要な漢字熟語を中心に関連する漢字熟語を覚えるといわれる.この学習スタイルに対し,一般的なCAI教材ではなく,学習者に高い自由度を与える形態の電子辞書の枠組みが適すると考える.我々は(1)漢字熟語と構成漢字の関係の知識検索,(2)構成漢字間の関係の知識検索,(3)漢字熟語の属性を利用した関連語検索が可能な電子辞書システムを提案する.さらにKIDSの特長は検索専用の電子辞書だけではなく漢字熟語知識の挿入・削除によるユーザカスタマイズ機能を持ち拡張性の高い知識ベースの枠組みを採用する.KIDSはSONY製EWS NWS-1750上に構築した.さらに我々は漢字林やKIDSを知識ベースとして利用する漢字学習CAIシステム“漢字工房"および漢字熟語学習CAIシステム“熟限無(JUGAME)"を構築した.