著者
愛甲 雄一 Yuichi AIKO 清泉女子大学 SEISEN UNIVERSITY
雑誌
清泉女子大学人文科学研究所紀要 = BULLETIN OF SEISEN UNIVERSITY RESEARCH INSTITUTE FOR CULTURAL SCIENCE (ISSN:09109234)
巻号頁・発行日
pp.147-164, 2020-03-31

一般に国際政治学の中で多数派支配を意味する共和政は、平和と結び付けて語られることが多い。そうした語りを行なった人物の代表的事例がカントであるが、しかし『法の精神』の著者として知られるモンテスキューも、実は同様の指摘を行なっている。ただ国際政治学の中では長い間、このモンテスキューの議論はほとんど取り上げられないままに放置されてきた。そこで本稿では、この研究上の空白を埋めることを通じて、共和政の対外的関係というテーマを今後再考するための足掛かりを得ることを目指したい。 実はモンテスキューの主張は、カントのように、共和政それ自体を平和的と見なすものではない。この政体と対外的な好戦性とは本来矛盾する、というのが彼の見解であり、その理由として、共和政国家が論理的に小国でなくてはならないことが挙げられている。モンテスキューによれば、共和政が持続するためには、私益よりも公益を優先する「徳」が人びとの間に備わっていなければならない。だが徳の維持は大国であるほど難しく、ゆえに共和政は、領土拡大を旨とする好戦的姿勢と両立させることが困難である。こうして対外的な平和の追求が、共和政の維持にとっての必要条件になる。 ところが共和政の歴史は、この政体が好戦的になり得ることを示してきた。実際、マキャヴェリを始めとするモンテスキュー以前の共和主義者たちは、主にローマの事例から、共和政を好戦的あるいは膨張主義的な政体と位置付けていたのである。しかしモンテスキューからすれば、ローマの帝国化は「歴史の偶然」に過ぎず、それと共和政との間に必然的な関係は存在しない。ただ共和政が大国化し得ることは否定できない歴史上の事実であり、だからこそそれを防ぐために、幾つかの策を講じる必要がある。その防止策として彼が提示したのが、以下に挙げる3つの方策であった。すなわち、小国である共和国が連合してその防衛力を拡大させる「連合共和国」を結成すること、専制への防波堤としての自由な制限政体を保持すること、そして「商業の精神」の普及によって平等な社会状態を維持すること、の以上3点である。 今日、行き詰まりを見せる現代社会への処方箋として、「共和主義」の再興を唱える向きは少なくない。だが、共和政の対外的関係というテーマに関して言えば、この点をめぐる現代の共和主義者たちの関心は相対的に希薄なままに留まっている。本稿が示すモンテスキューの国際政治理論は、この文脈において、重要な示唆や知見を与えるものとなるのではあるまいか。