- 著者
-
菅野 博史
ZHANG Wenliang
- 出版者
- 創価大学
- 雑誌
- 特別研究員奨励費
- 巻号頁・発行日
- 2009
張は、湛然の著作『金剛〓』、鮮演の『華厳経玄談決択記』、鳳潭の『金剛〓逆流批』などの解読を通じて、中国の天台宗も華厳宗もその根底に心性思想があり、しかもお互いに思想の交渉があることに注目し、主に鮮延と鳳潭の思想を中心として天台宗と華厳宗との交渉を検討した。「鮮延の性具善悪説」の中で、鮮延の心性説を考察し、澄観の華厳思想を継承しながら天台宗の性具善悪説を取り入れ華厳の心性説を改造したことを明らかにした。「鳳潭の中国華厳思想に対する批判と理論的意義」の中で、鳳潭は如何に澄観、宗密の華厳思想を批判し法蔵の華厳思想を堅持したかを考察し、澄観と宗密の「真心縁起」を否定し法蔵の「法性本空」の立場に立ち返ろうとした鳳潭の姿勢を分析した。「鳳潭と中国天台宗」の中で、山外家の華厳思想吸収の立場を批判し、智者大師の天台思想を守り、さらに「華天一致」の新説を打ち出した鳳潭の天台宗に対する認識を分析し、その思想的な価値と問題点を指摘した。以上の論文の中で心性問題をめぐって天台宗と華厳宗の立場の相違と思想の交渉を論じ、法性と仏性が一致するか一致しないかという問題をめぐって両宗が対立しながら、華厳宗が天台宗の思想を吸収し法性仏性一致の立場に変容した、という結論に到達した。さらにまた、華厳宗の心性論の変容を把握するために、中国で最初の『華厳経』注釈書である霊弁の『華厳経論』の「心」思想を考察した。霊弁の心性論の思想は、後の中国華厳思想に大いに影響したことを明らかにした。